純粋な軍事の話(9)
2019.08.02
板門店では上機嫌だったが、トランプ大統領の心理は、常に不安定な状態にあるように見える。
ツイッターへの煩雑な投稿を読んでいると、心理が一定していない。
文法やつづりの間違いが常態化しているところから、誰かに内容をチェックさせている様子もない。
つづりのミスなどお構いなしという無頓着な性格なのであろうが、自分の心の揺れを隠そうともしない姿勢には危うさがつきまとう。
何しろ、全世界を滅ぼす核戦力を有する国の大統領なのだから、「危なくってしょうがない」と言いたくなる。
その危うさが露呈したのが、先月、相次いで出されたイランへの攻撃命令と撤回命令である。
トランプ大統領は、米国の無人偵察機がイランに撃墜されたことに激怒して、報復の空爆を命じた。
大統領命令は絶対である。
米軍は直ちに攻撃準備に入り、イランの3ヶ所への攻撃体制を整えた。
しかし、戦争になることに恐怖を感じたトランプ大統領は、直前に攻撃の中止命令を出した。
トランプ大統領は、軍事に関してはド素人である。
軍事戦略の何たるかを勉強している節もない。
今回の攻撃命令と直前での中止命令は、大統領の素人さと精神的不安定さをさらけ出したものであり、軍は不信感を強めているであろう。
比較するのは酷だが、ナチスドイツのヒットラー総統に似ている。
ヒットラーは、第一次世界大戦に従軍していたが、階級は伍長という下っ端の下士官である。
「伍長」の語源は、5人部隊のリーダーである。
そんな経験しかないヒットラーは、最初は有能な将軍たちに軍の指揮は任せていた。
しかし、戦局が硬直化すると口を出し始め、突如ソ連への攻撃を指示した。
二方面への同時攻撃は、戦略上、最も行ってはならない手段である。
当然、ナチスの幕僚たちは反対したが、独裁者は言い出したら聞かない。
敗北への道の第一歩が始まってしまった。
今の米国がナチスドイツと違うのは、独裁国ではなく民主国家という点である。
しかし、トランプ大統領は、そんなことにはお構いなしに独裁者のように振る舞っている。
だが、イラン攻撃の時に露呈したように、本来は非常に気の小さい人である。
米軍は、あの時、イランへの出撃直前であった。
だが、その夜、「この攻撃での死者予想は150人」とのシミュレーション結果を聞いたトランプ大統領の心が崩れ、急に平和愛好者になったのである。
結果として戦争が回避されたことは良かったのだが、こうした大統領の激昂しやすいくせに臆病な性格が米軍に知れ渡ったことはマイナスである。
米軍の幕僚たちはどう思ったであろうか。