ウクライナ侵攻が教えていること(その2)

2022.06.30

今回は、ウクライナでの戦闘から分かる「ロシア軍の戦略戦術」について考察します。
双方が強気な発言を繰り返していますが、誰が見ても戦線は膠着状態です。
3日か、せいぜい1週間で終わらせるロシアの目算が100日を越えても先が見えない状態です。
ウクライナ軍の善戦といえますが、ロシア軍の意外な弱さが際立つ結果となっています。
 
そもそも戦闘というものは敵味方の相互作用なので、一方の思い通りにいかないことは当然です。
それなのに、ロシアは、あまりにもウクライナを見くびっていました。
ウクライナ側の行動・抵抗がロシアの想定をはるかに超えるほど強いということと、NATOがあれほどの武器援助をすることを想定できなかったことが主因です。
よって方針を変えざるを得なくなったのですが、第二、第三の戦略を用意していなかったことで前線は混乱に陥ったのです。
 
有名な軍事学者にクラウゼヴィッツという人がいますが、著書『戦争論』には「戦闘には摩擦が伴う」と書かれています。
この「摩擦」とは、軍事作戦を行う上での困難や障害のことを指しています。
孫子は、軍事計画を立てる際には「天地人」を下敷きに置けと説いています。
「天地人」における「摩擦=障害」とは、天候の変化や未知の出来事、予想外の地形、そして無能な上司や足をすくおうとする同僚などを指しています。
 
軍司令部は、彼我の戦力比較から、いくつもの戦略を立て、机上演習でその優劣を確認していきます。その後、実際に軍を動かす実戦演習でそれらの結果を確認します。
しかし、それだけではダメなのです。
さらに、可能な限りの「不利な条件」をすべて想定し、それでどうなるか、どうするかのすべての検証が必要なのです。
 
ところが、ダメな組織は、机上演習では「勝てる条件」ばかりを並べて「成功」をお膳立てします。
さらに、実戦演習でも同様のことを行ってしまうのです。
以下は、旧ソ連時代の、ある実戦演習の実話です。
深い谷に汽車が通れる鉄橋を1日で掛け、実際に機関車が貨物車両を引いて通過するという演習が“お偉方”“を前に実施されることになりました。
実際、鉄橋は1日で作りましたが、強度不足で車両を通すことが難しいことは明らかでした。
しかし、「できません」と言ったら、司令官の首が飛びます。
そこで、司令官は、あらかじめ、次の策を命じていました。
機関車も貨物車両もオールアルミで作ったのです。
もちろん貨車に積む中身は、見かけは重そうですが、中は空にして演習を行いました。
そして、車両は無事通過して、演習は何事もなく終わりました。
 
また、戦車が橋のない川を越え進撃する実戦訓練では、あらかじめ川底をコンクリートで固めておくようなことまでしていました。
実際の戦争でそんなこと可能なのかは子供でもわかりますが、その場をごまかせればOKなのです。
 
先の大戦の旧日本軍も、同様のことを繰り返していました。
大敗北に終わった海軍のミッドウェー海戦、陸軍のインパール作戦などは、その典型ですが、その敗戦は国民には徹底的に隠されました。
今のロシアも同様の状況にあるようです。
 
想定外の事態に陥った場合は、別の戦略・戦術に切り替える必要があるわけです。
しかし、硬直した組織だと、抜本的な計画修正ができず、当初の計画を進めようとする部分と、変えようとする部分とで矛盾をきたし、結果的にちぐはぐになってしまうのです。
企業経営でもまったく同じですね。
 
戦争の遂行は、損害と「戦いの目的」のつり合いをみていく必要があります。
ウクライナ侵攻におけるロシアとウクライナの損害は、ほぼ同程度と思われます。
しかし、国土を守り抜くという明確な目的を持つウクライナ軍に比べて、目的がどんどん曖昧になっているロシア軍の士気の差は歴然です。
ウクライナ軍の意識は、一種「殉教」的になっていて、どれだけ損害を受けても防衛戦闘をやめる意思は無いように思えますが、ロシア軍の将兵にそうした意思はないでしょう。