第一列島線の攻防(5)

2020.02.06

最近、「米国の空母艦隊は時代遅れ」とする論評がネットなどで拡散している。
そうした論者たちは、かつての日本の「大艦巨砲主義」と同じ道をたどると主張している。
表面的には、その通りかもしれないが、あまりにも“薄っペら”な見方といえる。
 
戦前の日本の大和、武蔵の悲劇を考えれば納得する面もあるが、そうした巨艦が意味なかったわけではない。
戦術面の失敗が、目指した結果を生まなかったのが真相である。
初期の制空権を得ていた時期に大和、武蔵を前線に投入していれば、その効果は絶大だったと予想される。
大敗北となったミッドウェー海戦でも、空母群の護衛として両戦艦を随伴させれば、現代のイージス艦のような役目が果たせて、あの敗北はなかったと思う。
結局、制空権を失った戦場に両戦艦を投入する羽目に陥り、その能力を発揮させることなく失った。
海軍軍令部の無策が招いた結果であった。
 
もちろん、現代の原子力空母といえども、裸で中国の対艦ミサイルの雨を浴びれば、大和、武蔵と同じ運命をたどるであろう。
しかし、現代の米軍の戦略中枢は、それほど愚かではない。
前号までに述べたように、中国が設定した第一列島線を逆手に取り、南西諸島に地上発射かつ移動型の中距離ミサイル戦力を配備する計画を自衛隊と共に実行に移しつつある。
驚異を感じた中国は、その配備を阻止せんとして、日本に急接近と脅しの両方を仕掛けてきている。
 
ただし、日本は、急を要しない限り、米国の中距離ミサイルの配備は行わないであろうし、それは堅持すべきである。
その代わり、自衛隊のミサイル戦力を充実させ、配備する計画でいる。
この計画を、中国としては非難しづらい。
お互い様だからである。
南西諸島のミサイル網を背景にすれば、米国の空母艦隊は行動の自由を得られる。
決して空母が時代遅れになったわけではないのである。
 
ここまで論評したことが実現するかは、正直、不明である。
あくまでも、米軍と自衛隊の戦略を解析し、妥当と思われる近未来を解説したものである。
私は、日米vs中国の戦争が実際に起こらないことを願っている。
しかし、中国が台湾への武力侵攻および尖閣諸島の占領を放棄していない現状では、侵攻に備える防衛体制を整備せざるを得ないことも確かである。
中国が冷静な判断をすることを期待するものである。