空母化する「いずも」「かが」は戦力となるのか(2)

2023.10.16

“いずも”型空母搭載のF35Bが装備する対艦ミサイルJSMは効果的な戦力です。
これは、ノルウェイが開発したものに改良を加えた射程500kmのミサイルで、中国は迎撃不可能と言われています。
海面スレスレを複雑な動きで飛ぶJSMの探知を中国はできないからです。
 
一方、スキージャンプ方式の中国の空母は、こうした長射程ミサイルを満載した状態の攻撃機を発艦させることはできません。
また、推進力の乏しい早期警戒機を発艦させることができないため、攻撃部隊に有効な情報を届ける能力が著しく劣ります。
 
無理と言われながら、3番艦の「福建」に電磁カタパルトを装備しようとしているのは、こうした“止むに止まれぬ”事情が大きいのです。
しかし、米国ですら安定した稼働に苦労している電磁カタパルトを、中国が稼働に成功するとはとても思えません。
しかも、「福建」の動力は原子力ではなくディーゼルエンジンです。
個人的な見方ですが、成功確率はほぼゼロと見ています。
中国が、なぜ、このような無理をするのか疑問ですが、国家主席の“鶴の一声”に逆らえないのかもしれません。
 
また、日中両軍のパイロットの質の差も大きいと言われています。
中国は、人民解放軍をハイテク軍隊にしようとやっきになっていますが、その背景には要員の質の低下に歯止めがかからないという現実があります。
空母艦載機の操縦は難しいのですが、最も難しいのが着艦です。
戦闘事態では、全速力で風上へ走る空母の甲板に着艦することが必要ですが、中国軍はパイロットの技量が低く、止まっているか低速での艦にしか着艦できないということです。
しかし、海が荒れている状態では、停止や低速状態の艦は揺れが大きくなり、着艦点がずれるという危険があります。
「遼寧」や「山東」の訓練の様子をネットの動画で見ることがありますが、海が凪状態の映像ばかりです。
実戦の戦闘状態を想起させるような映像は皆無ですが、そうした訓練ができる状態にないと言わざるを得ません。
 
戦前のプロペラ機の時代ですが、日本は豊富な本当の実戦経験を持つ国です。
米軍との激戦の中で多くの犠牲を払いましたが、その経験は戦後の自衛隊にも受け継がれています。
あの戦争を生き残ったパイロットの多くは自衛隊の教官となり、若いパイロットを指導してきました。
時代が違うとはいえ、こうした伝承の積み重ねの差は大きいものです。
実戦経験のまったく無い中国軍のパイロットの技量や軍全体の作戦能力は大きく落ちるのは当然です。
 
その上、先の大戦では激戦の相手であった米国と、今は同盟関係にあり全面的な支援を受けられます。
すでに、「いずも」型の艦載機に搭乗予定のパイロットは米国で訓練に入っています。
 
ただし、昨年「遼寧」は日本の石垣島などのすぐ近くで軍事演習を行いましたが、艦載機の発着回数は300回を超えました。
確実に中国海軍の練度が上がっていることは無視できない要素です。
もちろん、戦争を望むわけではありません。
しかし、中国が台湾侵攻の意志を公言し、尖閣諸島を「核心的利益」と呼ぶ間は、日本は、日中開戦が起きることを想定しなくてはならないのです。