戦争と平和(その6):中国の海洋戦略

2015.06.16

南シナ海における中国の強引な埋め立てが、米中の軍事衝突にまで発展しかねない情勢になってきました。
日本から見ると埋め立てはとんでもない侵略行為に思えますが、中国には中国の事情があるわけです。
まず、そこから分析する必要があります。

そもそも、習近平政権になってから声高に語られる中国の海洋戦略とは、いったい何を目的としたものなのでしょうか。
一言で言えば、「中国にとって『自由な海』が欲しい」のです。

この戦略によく似た政策を取ってきた国があります。
旧ソ連および現在のロシアです。
彼らが伝統的に欲してきたのは「不凍港」です。
真冬でも凍ることのない「自由に使える港」という意味です。
ですから、ロシアは伝統的に「南下政策」を取り、戦前は日本とぶつかり、現代ではウクライナ・クリミヤ半島の強制的併合へとつながっているのです。

しかも、両国とも実質的には独裁国家です。
強引な政治に対する国内の反対は、国家権力による暴力で押さえつけています。
また、紛争を抱える他国に対しても軍事力を前面に押し出して威嚇し、時には実力行使で臨みます。

さて、中国に話を戻します。
中国は大国ですが、中国から太平洋を眺めると、鎖のように出口を他国の領土で塞がれていることが分かります。
北東には日本列島が長く伸び、さらに奄美の島々から沖縄、石垣、西表と続き、台湾まで、この鎖はつながっています。
東シナ海は、完全に塞がれているのです。
そして、台湾の南からはフィリピンがつながっています。
多くの島々を抱える同国の領土は以外に広いのです。
さらに、ベトナムがあり、インドネシアがあって、南シナ海も塞がれているのです。
つまり、中国には、太平洋に開いた「自由な海」がないのです。

そこで、中国は、以下のように考えたのです。
最初は小さな島でよいから実効支配しよう。
そうして、次々に島を自国領に組み入れていけば、やがて南シナ海も東シナ海も、我が国にとって「自由な海」となる。
この戦略は、かつて、チベットやウィグルで行ってきた内陸での領土拡張論理であり、実際に、戦後、中国の領土は拡張されてきたのです。

しかし、海では、同じ手法が通用しません。
「密かに少しずつ領土を拡張する」という戦略が取れないからです。
小さな島でも奪取すれば、すぐに目に付きます。
そこで「それでは・・」と、強引な手法に出たわけです。

しかし、尖閣諸島の奪取を目指して、日本に激しい実力行使を続けても、日本は音を上げません。
正規軍による軍事力行使も考えていましたが、日米の軍事協力が強化されたことで、可能性はほとんどなくなりました。
それで矛先を南シナ海に向けたのですが、周辺国に比べて中国は遅れを取っています。
ベトナムやフィリピンが幾つもの島を実効支配していますが、中国が実効支配している島は一つもありません。
仕方なく、島ではない岩礁を占拠し、勝手に埋め立てて領土を拡張していくという戦略を取ったのです。
しかし、これらの岩礁も埋立地も、国際法上は「領土」として認められません。
従って、領海も領空も主張できません。
米国が、公海とみなして海や空でのパトロールを行うと宣言しているのは正当な権利です。

では、中国は、これからどうしようとしているのでしょうか。
それも次号で解説することにします。

(追伸)
書き終わったところに、時事通信の配信が届きました。
中国外務省の報道官が、今の埋め立てに対し、「既定の作業計画に基づき、近く完了する」と述べました。
中国の面子を守るための苦しい言い訳ですが、要は米国の軍事力に屈したということです。
やはり、平和を守るのは、守るに足る軍事力であり、それだけの軍事力を有しない場合は、集団的自衛権によるしかないという現実を見せつけられた思いです。