純粋な軍事の話(7)
2019.06.03
「空母いぶき」という映画が話題になっています。
首相役を演じた俳優が「本当はやりたくなかった役」と発言したことで、賛否両論が飛び交う事態になったことが話題になっています。
読者のみなさんはご存知と思いますが、原作は漫画で、こうした一連の仮想軍事シリーズで人気を博している“かわぐちかいじ”氏が原作者です。
私も、何冊かを読みましたが、軍事技術の描写は驚くほど正確かつ精密で、どこから情報を得ているのかと不思議に思うくらいです。
氏の作品には、自衛隊のイージス艦が太平洋戦争の真っ只中にタイムスリップしてしまう話とか、日本の原子力潜水艦が単独で日本から独立宣言し、潜水艦自体を一つの国家にして、米国艦隊と交戦するとかの「あり得ない話」が多いのですが、読者に“奇妙な共感”を生み出すことが特徴です。
それは、極端な言い方をすれば、未だ敗戦国の汚名を着たままの悔しさとか“やるせなさ”が残る日本国民の意識の底を刺激するからだと思います。
先日、若い国会議員が「北方四島を戦争で取り返すしかない」と発言して、大炎上しました。
国会議員として論外な発言ですが、彼が35歳の若者であることに注目しました。
彼の世代は、戦争を実際に経験した人間から、直接、戦争の話を聞くことは無かったはずです。
例え聞いたとしても、幼い時であったろうから、理解することは難しかったと思われます。
私は彼の父親世代ですから、当然、戦争経験はありません。
しかし、父が職業軍人であった上、同様に軍人だった伯父たちから直接話を聞いて育ちました。
父は、戦場で2度被弾し、生死の境を彷徨(さまよ)った末の敗戦帰国でした。
自分の傷以上に、多くの部下を失った心の痛手を抱えたままの一生でした。
特攻隊の生き残りだった伯父は、上京する度に靖国神社で亡き戦友に手を合わせる一生でした。
その父や伯父から直接聞く戦場や戦争の話は、リアルに私の心の中に入ってきました。
しかし、私が自分の子供に同じ話をしても、彼らの心の中に同じような感情は生じていないと思います。
しょせん“また聞き”であり、リアル感が無いからです。
安易に戦争発言をする若い国会議員の出現は、これからの社会を暗示しています。
しかし、「だから反戦教育を」とか「平和憲法を守れ」というのは、現実逃避にしかなりません。
韓国が主張するような「反省が足らない」も的外れな意見です。
善悪を外した目で、リアルな現実を真正面から見て、未来に向かう道を探ることが大事です。
私は、この「純粋な軍事の話」をそうしたリアルな目で見るために書いています。
次回は「空母いぶき」の描く世界を「純粋な軍事の話」として解説する予定です。