水商売からビジネスを学ぶ(その6)

2025.02.03


お店はようやく収益軌道に乗りましたが、そこから新たな試練が始まりました。
まずは、水商売につきものの“やくざとのトラブル”です。
今は水面下に潜っていますが、当時は地元の“やくざ”が大手を振って水商売の店から「みかじめ料」なる金銭を強制的に徴収していました(もちろん、当時でも違法行為です)。
この「みかじめ料」とは何かというと、他の暴力団からの“たかり”や嫌がらせからお店を守ってもらい、そのかわりに払う“用心棒代”です。
つまり、良い比較ではありませんが、現代の警備会社のような存在だったともいえます。
もちろん、警備会社の商売は合法ですが、彼らの行為は違法な“たかり”です。
 
私の一家の生計を支えていた、このお店にも“やくざ”は、当然やってきました。
しかし、ここで引いたら“しゃぶり尽くされる”と思った私は、彼らの要求には一切応じなかったので、危うく刃傷沙汰になるところでした。
しかし、私の抵抗が本物だと感じた“やくざ”のほうが引いて、事なきを得ました。
正直、恐怖に体は硬直しましたが、カウンターの中の刺身包丁をとっさに握ったら不思議に震えが止まり、腹が決まりました。
武器の最大の効果は、こうした効果(つまり、専守防衛の備え)なのかなと今では思います。
このときは、この店が一家を支えていたので、文字通り命を捨てても守るとの覚悟でした。
読者のみなさまは決してマネしないでください(もっとも「するわけないだろ」と言われそうですが)。
 
次の試練は、読者のみなさまのご想像どおり、女性問題です。
ホストクラブのように男性が女性のお客をもてなす世界もありますが、今でも本流ではありません。
当時の私のお店にも、当然、ホステス目当てのお客様も来ました。
多くは、お酒を楽しみ、仲間や店のスタッフとの会話を楽しむお客様でしたが、中にはお酒の力も借りて、好みのホステスを本気で狙うような人もいました。
私は、ホステスには「度を越さないように」と何度も注意し、適度な時間で席を移動し、特定のお客様の相手だけをしないように注意していました。
こうしたことは他のお店でも、また現代でも同じ配慮をしているようですね。
 
それでも厄介なことは起きます。
閉店後の掃除をしていた時、一人のホステスから電話が掛かってきました。
「忘れ物かな?」と思って電話を取った私の耳に「チーフ助けて」という彼女の声が響きました。
「どうした!」という私に「お客様が部屋のドアを壊そうとしている」という緊急事態。
彼女の住むアパートはお店の近くにありました。
急いで駆け付けた私が見たのは、ホステスの部屋のドアのカギを壊そうとしている男の姿でした。
物音で住民の何人かが廊下に出ていましたが、誰も怖がって近づこうとしません。
 
私は、ゆっくりと男に近づき、「お客様、私です」と声を掛けた。
男の血走った目つきに恐怖を感じたが、落ち着いて「○○(店の名前)のバーテンです。どうされましたか」と言った。
男は、呂律の回らない口調で「彼女が開けてくれないんだ」とドアを叩いた。
私は「そんな乱暴にドアを叩いたら怖がって余計に開けてくれませんよ」と諭し、「周りの方に迷惑ですから、外で話しませんか」と、穏やかだが有無を言わせぬ口調と男の腕を強めに掴んで誘導した。
男は私をにらみ付けたが、怯む様子のない私に諦めたのか、一緒にアパートの外に出た。
外の夜風に吹かれて頭が冷えたのか、間もなく男は黙って去っていった。
その間30分ぐらいであったが、正直、私は緊張でクタクタになった。
アパートの彼女の部屋の前に戻り、ノックして「終わったよ。安心して」と声を掛けたところ、ドアを少し開けて、怯え切った彼女が顔をのぞかせた。
私は「交番のおまわりさんに事情を話し、パトロールをお願いするから、もう安心して寝てください」と声を掛け、「明日、お店が開く前に来てくれないか。話がある」と言って、そこを去った。
 
翌日、開店前のお店に来た彼女に「あのような男は決して諦めようとしないからね。とにかく姿を消すことだ。僕もこれ以上貴女を守り切れないからね」と諭し、郷里に変えるよう説得した。
結局、恐怖感も手伝ったのだと思うが、彼女は郷里へと帰っていった。
 
ここまでのケースは稀でしたが、暴力がらみや女性がらみの問題にはその後も悩まされました。
そのような折、水商売の経営を揺るがす大きな法改正が行われ、別の意味のピンチに襲われました。
次号に続きます。