これからの中小企業の経営(8)

2024.08.02


SNSや経済誌には「日本の中小企業はダメだ」を声高に主張する解説が結構載ります。
かなり著名な方が、ユーチューブで以下の発言をしていました。
「日本の企業数は360万社。ということは360万人の社長がいるということ。労働人口が8000万人とすると、22人に1人が社長という“異常値”だ」
続けて「360万社の大半は中小企業で平均社員数は3人と少々。うち一人が社長という・・」と言い、中小企業の多さが日本経済のアキレス腱だという持論を展開していました。
 
似たような論を展開する経済評論家もいて、一定の支持もあるようです。
こうした評論家の論調は「日本の中小企業はダメだ」という主旨で、その根拠に上げるのは、中小企業の生産性の低さです。
 
たしかに、財務省の「2020年 法人統計調査」の製造業の生産性を見ると、大企業が1267万円、中小企業が520万円と、中小企業は大企業の41%という低さです。
ちなみに、EU各国の中小企業の生産性は、大企業の67~80%です。
大企業の優勢は変わりませんが、日本に比べると、まだ“まし”といえる数字です。
 
では、こうした数字が意味することとはなんでしょうか。
生産性は、以下のように非常に単純な数式で算出される数字です。
「労働生産性=付加価値/労働者数」
「付加価値=売上高-(材料費+外注費+その他外部への支払い額)」
要するに、売上から社外に出ていく費用を引いて社内に残る利益を従業員数で割った指標です。
 
全企業が、この数式の各要素を同じ基準で正しく算出していれば、大中小関係なく公平な指標と言えるでしょう。
しかし、現実はそう簡単な話ではありません。
例えば労働者数ですが、大企業は正社員を減らし、派遣社員を増やし、さらには「業務委託」という外注費に変えたりしています。
当然、従業員数は減りますが、売上が同じであれば労働生産性は上がります。
では、そうした大企業は「好調な優良企業」といえるのでしょうか。
 
中小企業で、上記のような形で従業員数をコントロールしている会社はあまり無いでしょう。
つまり、単純に労働生産性で大企業と中小企業とを比較して「中小企業を淘汰しろ」と言うのは乱暴すぎると言いたいのです。
上場企業は経営成績が公表されるので、ごまかしにくいのですが、公表する義務がない中小企業の場合は、「分からない」が正解です。
 
ところで現在、企業の大小に関係なく、賃上げしないと従業員の確保が難しくなっています。
ゆえに、頑張って賃上げを続けたことで中小企業の労働分配率は80%に近付いています。
つまり、事業で上げた利益(付加価値)の8割を従業員に還元しているわけです。
ということは、賃上げを続ける余地がなくなってきているといえます。
中小企業の多くは、賃上げ競争で大企業と競うことが無理になってきているのです。
SNSの「日本の中小企業はダメだ」の主張は、こうしたことも下敷きにしているといえます。
 
今回は“生煮え”のような分析でしたが、次回からは中小企業強化の方策について論じていきます。
引き続きお読みください。