日本流の中国との付き合い方を(その4)

2019.03.04

今回の米中貿易戦争は、米国の圧勝に終わるであろう。
事実が中国にとって圧倒的に不利だからである。
産業スパイやサイバー攻撃による技術窃取は、習政権が指示した事実である。
習近平主席は、自らの「中国の夢」を実現するため、人民解放軍や情報機関に技術搾取の指令を出した。
中国は、トウ小平が唱えた「猫の仮面をかぶり、虎の本性を隠す」という戦術を堅持してきたが、習近平主席は「トランプはアホだ」と確信して、「猫の仮面を脱ぎ捨て、虎の本性を表す」戦術に転換した。
それが「中国製造2025」の宣言であった。
だが、彼はトランプ大統領の力を見くびり過ぎた。
これほどの強硬姿勢で来るとは思わなかったのである。
 
やむなく習主席は妥協し、米国の圧力を一時的に弱める策に出た。
米国の攻撃は一時休止状態になったが、矛先は中国を向いたままである。
習主席にとって、それよりやっかいなのは、国内対策である。
もともと対立している派閥が「それ見たことか」と勢いを増すのは当然だが、米国に屈服した形になり、自らが駆り立てた対米強硬派の不満を抑え込むという新たな火種を抱え込むことになってしまった。
 
しかも、米国貿易戦争で合意できたとしても、米国がこれで圧力を緩和するはずがない。
貿易戦争で勝ったトランプ政権は、南シナ海などの安全保障面でより強硬な姿勢を鮮明にしてくると思われる。
習近平主席は、まさに「前門の虎、後門の狼」状態に陥っているのである。
 
この先、トランプ政権には幾つもの手がある。
追加の制裁関税をちらつかせることは勿論だが、中国要人たちの在米資産の凍結に踏み切るという切り札も持っている。
いま、パニック状態の中国要人たちは、すでに一部では在米資産の海外逃避を始めているという。
では、彼らは資産をどこに逃がすというのであろうか。
カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、さらに英国は、前号で伝えたように、諜報分野で一体となっている「ファイブ・アイズ」の国々である。
となると、逃げる先は日本しかない。
東京や大阪の高層タワーマンションが中国人による爆買い状態にあるというが、かなりの部分が共産党幹部の逃避資金ではないかと言われている。
 
中国経済の悪化は止まらず、経常収支は20年ぶりに283億ドルの赤字(2018年前期)に転落した。
皮肉なことに大幅な対米黒字がなんとか経済を支えているのが現状である。
トランプ大統領の攻撃に耐えうる力は急速に衰えているのである。
 
このまま経常赤字が続けば、外国からの資金が必要になるが、ファンドは警戒して動かないであろう。
となると外貨準備を取り崩すしかないが、金融恐慌への引き金になるのが怖い
習政権はトランプ政権によって追い詰められているのである。
 
そうした中国にとっての頼みの綱は日本である。
日本との関係を強硬姿勢から一転して「対等のパートナー」と手のひら返ししたのは、真意ではなく、追い詰められたからである。
安倍首相は新たな時代の3原則として、「競争から協調へ」、「お互いパートナーとして脅威にならない」、「自由で公正な貿易体制の発展」を日中首脳会談で謳い上げたが、その裏に確固たる戦略を秘めているのであろうか。
まさか本気で「お友だちになろう」と思っているわけではないと思うが、そこが心配である。
米国と良好な関係を保ってはいるが、ガラス細工のような脆さもある。
今の事態をどう利用して、日本の国益に結びつけるのか。
野党が国会で首相に問うのはそこであろう。
低レベル大臣の低レベル発言に噛み付くという低レベルさを脱してもらいたいものだ。