抑止力という名の軍事力(13)
2021.06.01
今から35年前の1986年、1本の米国映画が大ヒットしました。
若き日のトム・クルーズが主演を努めた「トップガン」です。
当時の米海軍の主力戦闘機F-14に乗る戦闘機パイロットの青春群像を描いた航空アクション映画です。
ですが、あの映画はまったくのフィクションで、戦闘訓練場面はすべて「ウソ」です。
あの映画では、戦闘機同士が近距離で戦うドッグファイトが描かれていましたが、そうした戦いはベトナム戦争が最後でした。
1986年当時でも、最新鋭の戦闘機同士の戦いでは、互いに肉眼では見えない遠方からミサイルを発射し合う戦い方が主流になっていました。
それでは、映画としては「まったく面白くない」ので、あえてウソのストーリーにしたわけです。
映画としては仕方ないですが、多くの人々が騙されたわけです。
近年、ミサイル技術やネットワーク技術の飛躍的な発展に伴い、空中戦の様相は大きく変化しました。
戦闘機のステルス性能ばかりが話題になりますが、それより、軍事衛星を含めたあらゆる情報を複合的に処理して、はるかな遠方から敵機の位置を正確に把握する機能が戦闘の優劣を決する時代となっています。
今や、最新鋭の戦闘機の価格の80%は、こうした情報機器およびソフトウェアの価格だと言われています。
軍事だけでなく、民生(つまり企業)も、そうした時代を迎えつつあります。
大げさに言えば、情報インフラとソフトウェア装備に企業予算の80%をつぎ込まないと、企業間競争に敗れるということです。
コロナ禍が、その傾向を顕在化させたわけですが、今後、ますます加速していくことは確実です。
話を軍事に戻します。
米国はもちろん、中国やロシアも、こうした戦闘機の開発に血道を上げています。
この両国と海を挟んで国境を接する日本は、米国の軍事力に防衛を依存してきましたが、それにも限界が来たようです。
日本は、米国からステルス戦闘機F-35を大量導入するだけでは不足として、F-2に代わる国産戦闘機の開発に踏み切ることとしました。
その開発コンセプトは以下のとおりです。
①量に勝る敵(まさに中国)に対する高度ネットワーク戦闘機能を備える
②優れたステルス性を有する
③敵機の捜索・探知に不可欠な高度センシング技術を備える
上記3点を併せ持つ戦闘機の開発計画を記した防衛省の資料には、次の注釈が字体を変え、大きく書かれていました。
「このような戦い方を可能とする戦闘機は、現在、世界には存在しない」と・・です。
つまり、かつての「ゼロ戦」を開発するという防衛省の意志表示です。
ゼロ戦は、長大な航続距離と強力な武装を併せ持つという、当時の常識を超える戦闘機だったのですが、令和の時代に、その開発を再現しようというわけです。
しかし、そこには大きな壁があります。
それは、次回、述べます。