曲がり角の先の経済を考えてみよう(9):日本復活のカギは半導体(3)

2023.06.20

1回休みましたが、この話題、もう少し続けます、
 
日本の半導体復活の望みを掛けたラピダスに対し政府の全面的な支援が必要だと、前回(3月31日号)書きました。
しかし、同時に「別の問題がある」とも書きました。
それは開発のスピードです。
 
現在、世界で量産可能なのは7ナノレベルまでで、2024年度に5ナノが「可能か?」という段階にあります。
ラピダスは、さらに上の2ナノの量産体制を、2027年に実現すると発表しました。
しかし、その発表を聞いてまず思ったことは、「遅い!」です。
私が描いていたのは、2025年にプロトタイプの完成、2026年に量産開始でした。
たかが1年の差ですが、その1年が重たいのが半導体の世界です。
海外のライバルたちが黙っているわけはなく、2ナノの製造は2026年には始まる可能性があります。
 
まして、ラピダスは、これまでなんの実績もない新興企業です。
たしかに、ラピダスに出資・参加する企業群は日本を代表する大企業ばかりですが、半導体の技術開発の空白期間が長いことに不安があります。
設計に米国IBMが参加することは強みですが、時間との競争はシビアです。
その上、一段と高いレベルの生産ラインの構築も大きな課題です。
すべてを同時並行で進めなければ、競争に負けるでしょう。
 
一方、強みは半導体の素材や製造装置など、日本が圧倒的な力を持っている分野です。
前号で紹介した素子間の仕切(ゲート)で最高の製品を有する日立製作所の“FinFET”を始めとして、ウエハ、レジスト、スラリ(研磨剤)、薬液などの半導体材料の技術力は世界一であり、シェアも圧倒的です。
さらに、十数種類もある前工程の製造装置のうち、5~7種類において、日本はダントツのトップです。
米国やオランダも大きなシェアを持っていますが、彼らにしても、数千~十万点に及ぶ部品の6~8割は日本製なのです。
 
肝心の半導体そのものに話を戻します。
世界最大の半導体生産のファウンダリーメーカーは、台湾のTSMCです。
また、メモリ分野では、サムスンやSKハイニックスを擁する韓国が世界一位です。
しかし、前述のように、彼らは各種材料や部品の大半、また製造装置の多くを日本に依存しています。
前政権で日本に喧嘩を売った韓国がホワイト国から外されて大慌てだったことを覚えている方は多いと思います。
当時、サムスンのCEOが急ぎ来日して、各種メーカーを回り供給を懇願した話は有名です。
 
世界一位の台湾のTSMCは熊本に工場を新設中ですが、製造する製品は28~29ナノレベルと聞いています。
北海道にも工場新設の計画があるそうですが、それも14~16ナノレベルです。
彼らが5ナノレベルを日本で生産するよう圧力(利点?)を加えることは政治の世界の話ですが、そんなことより、国は、まったく新たな半導体の開発に資金を投じて欲しいものです。
 
4月17日、佐賀大学理工学部の嘉数誠教授が、ダイヤモンド半導体デバイスで、世界初となるパワー回路を開発したと発表しました。
現在の半導体素材はシリコンやケイ素が主流ですが、大電力での効率化や高速性において劣化が大きいという弱点を抱えています。
ダイヤモンドは、こうした性能において数千倍から数万倍という耐性を有しています。
さらに、ダイヤモンド半導体は「放射線に強い」という特性から宇宙空間での利用には欠かせないものになるでしょう。
 
「でも・・ダイヤモンドは高いだろう」と言われるでしょうね。
たしかに天然ダイヤモンドは高価です。
しかし、人工ダイヤモンドを造る技術は進化し、安価で天然物を上回る性能のものが造られています。
それでも、研磨の難しさも相まってコスト高であることは確かです。
ゆえに、製造が軌道に乗るためには国家としての支援が必須です。
米国や中国は数兆円から数十兆円規模の補助を計画しています。
それに対して、日本は数千億円と桁が低すぎます。
H3ロケットの打ち上げ失敗も開発費の削減が原因と思っています。
政府には、再考を促したいものです。