中国の思惑通りにはいかない(その11)
2021.03.16
コロナ禍で欧米日のGDPがマイナスに陥る一方、中国だけがプラスとなっています。
このデータから、中国経済が2028年に米国経済を上回るというネット記事が散見されます。
しかし、中国の発表数字をそのまま信じた上で統計数字を単純に上乗せしただけの記事で、小学生並みの低レベルだなと思いました。
そこで、前号で取り上げた中国の「双循環」戦略について、中国のエコノミストである全国政協委員の賈康氏たちの見解をミックスして考えてみました。
まず先行させる「内循環」ですが、以下の3段階を想定しています。
(第1段階)デジタルインフラなどの新型インフラ建設への投資拡大 ⇒ 内需拡大、雇用促進 ⇒ 民衆の収入増 ⇒ さらなる市場への期待の促進という循環を加速させる。
(第2段階)その後、政府が富の再分配の最適化と農村人口の都市民化を行うことで、「輸出から国内消費への転換」が起きる。
(第3段階)企業と政府の関係が改善され、市場経済を基礎としたビジネス環境が高度化し、法治化を含めた全面的な改革が深化する。
こうしてできた内側の力を的確に選択して、外に向かってレベルの高い(中国有利な?)開放を目指す。
これで、西側社会が作り上げた既存のグローバル・サプライチェーンとは別に、中華圏経済の国際サプライチェーンを新たに構築する「外循環」を形成する。
要約すれば、中国国内経済の「内循環」を餌にアジア諸国などを従える「外循環」という国際分業の仕組みを「双循環」としているようです。
これだけでは、まだ説明が足らないですね。
中国は、現在の米国中心のグローバル・サプライチェーンの一員としての中国の成功を「国際大循環」と位置づけていますが、米国による中国の排斥が顕著になってきています。
そこで、中国国内の内循環を主体とする双循環システムに移行させることを目論んでいるのです。
習近平主席の唱える「一帯一路」戦略の補完ともいえます。
しかし、「双循環」戦略には致命的に大きな弱点があります。
それは、世界経済の大半が米ドルという基軸通貨で決済されている事実です。
となると、中国の真の狙いは、米ドル基軸体制からの脱却ということになります。
つまり、人民元基軸体制の確立狙いということです。
しかし、現在の人民元の信用の裏付けは外貨準備高(つまり米ドル)という矛盾が生じます。
さらに、外貨準備高が日本より下回っている(つまり、円のほうが、信用度が高い)という現実が重たいです。
中国が、やっきになって推し進めようとしている「デジタル人民元」や「人民元の仮想通貨」の狙いは、こうした弱点の逆転を狙ってのことなのです。
でも、米ドルやユーロ、円で決済している国々が、デジタルや仮想通貨の時代になろうと人民元を信用するでしょうか。
長引く米国の金融制裁で経済が壊滅状態の北朝鮮とイランが飛びつくくらいでしょう。
中国の経済閣僚や専門家の力量を疑わざるを得ないことが、率直な感想です。
ただ、ひとつ不思議なことがあります。
中国経済を主管する立場の李克強首相が「双循環」にはまったく言及していないことです。
習近平主席との不仲が取り沙汰されていることもあって、「双循環」は失敗するとみて、距離を置いているという見方もあります。
率直に見て、政治的力量はともかく、経済に関する知見において、習近平主席の力量は李克強首相に遠く及びません。
次号で、この2人の考えの違いを述べてみます。