トランプvs DEI(その2)
2025.07.16
繰り返しますが、DEIはDiversity(多様性), Equity(公平性), Inclusion(包括性)の頭文字をとった言葉で、近年のアメリカで急速に市民権を得てきた言葉です。
しかし、トランプ大統領はDEIに反対する急先鋒です。
昨年の選挙戦の最中で起きたトランプ暗殺未遂では、何の関係もない「シークレットサービスのDEIプログラム」をやり玉に挙げました。
「自分が撃たれたのはDEIプログラムのせいだ」というわけです。
そして大統領選ではカマラ・ハリスに「DEI候補」のレッテルを貼り、「彼女は、女性でマイノリティだから候補になれた『弱い候補』だ」というイメージで個人攻撃を繰り広げました。
この主張は、トランプ支持者の多くを占める白人男性たちに見事に刺さり、マイノリティの不法移民排斥の主張とも連動し、共和党に対する高い投票につながったと考えられています。
そして、大統領に就任した初日の1月20日、バイデン前政権のDEI重視政策を終わらせる大統領令に署名し、まず軍事部門でDEIを重視する高官らを追い出すことを即実行に移しました。
翌21日、沿岸警備隊の女性司令官のリンダ・フェーガン氏を解任したのです。
理由は、「多様性・公平性・包括性(DEI)を“過度に重視”した」というものです。
米国の沿岸警備隊は、陸海空各軍や海兵隊、宇宙軍と同格の6大軍事組織の一つで重要な部門です。
フェーガン氏は、バイデン前政権下の2022年に、上記の6大軍事組織で初の女性制服組トップになっていた人物です。
読者のみなさまは、ロサンゼルスの山火事において女性の消防署長がトランプの攻撃の的になったのを覚えておられると思います。
トランプ氏にとって、女性のトップは、とにかく目障りなようです。
さらに、今後は肌の色や性別にかかわらず実力主義で採用する「カラーブラインド」社会を目指すと宣言しました。
一見すると、「当たり前のことでしょう」となりますが、裏があります。
この宣言は、1965年、ケネディ元大統領の後を継いだジョンソン元大統領が発令した「雇用機会均等法」の撤廃なのです。
この法は、「連邦政府とその下請け業者は、労働者を人種や性別で差別することはできない」という、公民権運動の象徴ともいうべき法律だったのです。
その大統領令の廃止は、60年間続いてきた米国政府の方針を180度転換することなのです。
同法の廃止に伴いトランプ大統領は、様々な政府機関で働くダイバーシティ雇用に携わる人々を軒並み解雇または自宅待機にしました。
さらに、政府機関の全職員に対し、DEIらしきプログラムを行っている同僚を知っていたら、密告することまで命じました。
その結果、DEIやダイバーシティといった言葉は、政府の公式ウェブサイトや文書から削除され、または変更されています。
例えば、LGBTQはLGBに変更されました。
また、「性別は男女2つだけだ」というトランプの主張に沿って、性別「X」が廃止されました。
日本では馴染みはないですが、性別「X」とは、「男性でも女性でもない」という性別です。
実際、パスポートの性別が「X」となっている者は、そのパスポートは使えなくなりました。
では、民間企業ではどうなのでしょうか。
トランプ氏に「右に倣え」なのか、抵抗しているのか、あるいは知らん顔なのか。
それは次号で。