抑止力という名の軍事力(4)
2020.09.01
今回のコロナウィルス禍は、今の世界の状況を見事なまでに明るみに出したといえます。
トランプ大統領の言動によって、世界は米国の能力に疑問を持ち、米国への信頼性に陰りを生んでいます。
一方で、ウィルスの感染源である中国が、自分本位で無責任な行動を取る国であることが、だれの目にも明らかになりました。
両大国の身勝手さ、お粗末さに世界は呆れたわけですが、自由主義諸国にとっては、米国は同じ思想の国家です。
しかし中国は、イデオロギー的に相容れない権威主義国家です。
14億人の市場に目がくらんできた欧米や日本ですが、ようやく中国の野望の危うさに気付いてきました。
とても、中国を世界の指導的地位に就けるわけにはいかないという点で、西側諸国は一致団結してきています。
また、一帯一路で借金漬けにしたアジア・アフリカ諸国も、中国の意図に気づき始め、反旗を翻し出しています。
今の中国が、国連のあらゆる機関を利用して自国の権益を守り、人権よりも国家の主権が重視されるよう外交面で全面攻撃を仕掛けていることは、多くの人が知るところとなっています。
中国は、孫子の兵法を駆使していると分析される「シャープパワー」戦略で、外国に対する世論操作や工作活動などで自国に有利な状態をつくり出すことに一定の成功を収めてきました。
各国にアメリカを上回る数の外交官を送り込み、さらに金融や気候変動対策などのルール作りを担う国際機関で議論を主導するため執拗な働きかけを行い、こうした機関の幹部の一角を占め、あるいは他国の幹部をカネ漬けにしてきました。
コロナ禍におけるWHOのテドロス事務局長などは、その典型的な例です。
中国は、コロナ禍で世界が混乱している今がチャンスと見て、露骨な野望をむき出しにしてきましたが、少々焦り過ぎといえます。
中国の露骨な攻勢によって作り出された一連の緊張状態は、地政学的な利害衝突よりも、民主主義vs権威主義の全面的対立ではないかという本質問題に欧米が気付き、危機意識を共有してきました。
英国がアジア海域に空母艦隊を派遣するという動きに対し、中国が激しい反発を見せたのは、中国にとって予想外だったことが伺えます。
中国の次の照準が台湾と尖閣であることは、誰の目にも明らかです。
しかし、日本政府は、河野防衛大臣一人に強硬論を言わせ、安倍首相は沈黙を守っています。
この沈黙が中国に対する忖度なのか防衛戦略なのか、今のところは手の内を明かさないようです。
南シナ海で、フィリピンやベトナムが実効支配していた島々を中国に取られたのは、両国の軍事能力、特に海軍力の弱さが主因ですが、トランプ政権が自国主義に縮こまったスキを突いたものであることは、誰もが知るところです。
日本は、中国の侵略に対抗できる自らの抑止力の整備と併せ、後方支援力としての米軍との一体抑止力の存在を世界に示す必要があります。
しかし、単純な軍事国家を目指すのではなく、以下のアピールが大切です。
「日本は、他国に侵される隙を作らず、侵そうとする相手には多大な犠牲・損害を生ぜしめる合理的防衛力を保持する中庸の国家(Middle Power Country)を目指す」というアピールです。
かつ、「各種紛争に対し、仲介・調停に長けた外交力を持つ国家として国際社会に寄与できる実力を備えた国家になる」ことを宣言するのです。
このアピールは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」を前提とする現行憲法と矛盾します。
単なる改憲への賛否ではなく、上記のアピールを考えた議論を望みます。