抑止力という名の軍事力(18)

2021.11.02


中国による台湾威嚇が異様なエスカレートを見せています。
台湾の防空識別圏へ侵入する中国軍機の数は、戦争一歩手前の状態にまで膨れ上がっています。
台湾の国防部長は、軍事的行動をエスカレートさせている中国について「4年後にも台湾を侵攻する能力を備える」と警戒感を示しました。
 
今の中国には他国と対話する気はまったくないようです。
尖閣諸島への中国公船の領海侵犯も、海底ガス田の開発も、さらには南シナ海の埋め立てや軍事基地建設などもすべて、自分たちの当然の権利であり、他国にとやかく言われることは内政干渉だと、頑なに主張するだけです。
 
習近平主席は7月の中国共産党創立100周年記念式典の演説で、以下のように述べました。
「中華民族には5000年の歴史で形成した輝かしい文明がある。師匠のような偉そうな説教は絶対に受け入れない」
欧米が人権問題を盾に批判していることに対する強硬な反発でした。
 
ただし、中国のこうした強行姿勢は、国際社会の批判を気にしていないのではなく、逆に相当に気にしていることの裏返しでもあります。
外国から国内の問題点を指摘され、それを認めれば、共産党が誤りを犯したことを認めることになり、一党支配の正統性が揺らぐことを恐れているのです。
ゆえに、国際社会の批判は、わずかであっても決して認めることはできず、かたくなな態度を取らざるをえないのです。
 
しかし、「自分たちの主張は絶対に間違っていない、ゆえに話し合う必要はまったくない」という姿勢では、外交が成り立ちません。
「内政干渉だ」という言葉で他国の主張に耳をかさず、対話を拒否し、自分たちの正当性のみを主張するという、あまりにも頑な中国外交が変わらないことで、「中国とはまともな会話ができない」という空気が国際社会に広がってきています。
貿易利権により中国に融和的であった英国やEU各国も距離を置き始めています。
それでも、本格的な介入姿勢を見せる英国は例外として、EU各国は旧式な小型艦艇を送るだけで腰が引けています。
そのことを見透かしている中国は、強硬姿勢を決して緩めようとはしません。
 
台湾に対し執拗な驚異を与えることを繰り返し、台湾国民を不安にさせることが、中国の今のところの狙いです。
台湾の蔡英文政権は、その点をよく国民に説明して理解を求め、不安を極力抑えることが大事です。
そのような外交と内政の一体化を進め、まずは国民の不安を抑えていって欲しいと思います。
 
そんな中国が一番気にしているのが、新政権に変わった日本の防衛戦略です。
しかし、問題は日本政府の弱腰ぶりです。
松野博一官房長官は、「動きの一つ一つへのコメントは差し控える」とか「台湾海峡の平和と安定が重要で、情勢を注視している」と、へっぴり腰丸出しの姿勢です。
この姿勢が、岸田首相の外交姿勢の代弁なのかは、まだ分かりません。
今後、岸田首相が、中国の行動に対し、はっきりとクギを刺させるかどうかを見ていきます。
朝日新聞ですら、「台湾海峡 危うい挑発を憂慮する」との社説で「何も言わず台湾の人々に脅威を与える。進入の既成事実を重ねて『常態化』していく。(中略)そんな手法はただちにやめるべきだ」と主張しているのですから。
 
日本は、中国がもっとも嫌がる抑止力の強化で、台湾を側面支援すべきです。
その最も有効な手段は、世界最優秀とされる潜水艦隊の強化です。
過酷な水圧に耐えて深海に潜航するには、艦体を覆う強靭な鉄鋼が必要ですが、最高度の高張力鋼を造る技術は、日本にしかありません。
双方の潜水艦の限界潜航能力は、推測に過ぎませんが、中国400m、日本800mぐらいの差があります。
さらに静粛性や相手艦を探知する能力などにおいても、日本は世界で群を抜いています。
 
日本は、現在の22隻体制を倍増するくらいの配備計画を立てるべきです。
問題は乗員の確保ですが、最新鋭の「たいげい」は、IT化が進み、従来型の半数程度の人数で運行できるということですから、乗員不足は補っていけるでしょう。
こうした計画を発表するだけで、中国の行動に対する大きな抑止力となるのです。