戦争抑止力としての軍事同盟(2)
2019.08.02
トランプ大統領が日米安保条約を破棄する考えを側近に話した。
米国政府はすぐに打ち消したが、大統領はツイッターでも同様のことを投稿し、発言が真意であることを自ら証明した。
驚くほど浅はかな発言に見えるが、日米貿易交渉や武器購入を有利に進めるための発言であることは見え見えといえよう。
一部に、憲法改正を目指す安倍首相に対する援護射撃との論評もあるが、トランプ大統領は、そこまでの考えを巡らす人ではない。
逆に、最近の日中接近に対する警戒心の表れと解釈したほうが良いのかもしれない。
米軍のトップは大統領であるが、実際の戦略は、米国国家安全保障戦略、国家防衛戦略に明記されている。
その中で「中国、ロシアとの大国間競争に打ち勝つこと」、さらに、この両国とは長期間の戦略的競争関係になることを明言している。
特に、近年急速に軍事力を増強している中国は「地球規模で米国の主導的地位に取って代わろうとしている」とはっきりと警告している。
さらに、中国は、第1および第2列島線内で米軍に対抗する能力を着々と整備し、2025年までにインド太平洋全域で米軍に対抗できる能力を構築するであろうと、両戦略で明言している。
米軍の力が後退すれば、日本は中国の軍事的勢力圏内で孤立する恐れがある。
こうした事態の到来を、日本の新「防衛計画大綱」では「安全保障上の強い懸念」と表明している。
日本が踏み切った集団的自衛権の行使は、この米軍の新戦略と深い関係がある。
つまり、日米安保条約を日米軍事同盟へ進化させる布石である。
しかし、ここに来て、この動きにストップがかかった。
昨年10月に訪中した安倍首相が、「これからの日中関係は『競争から協調へ』を3原則の一つとして確認した」と発言したからである。
この発言は、米国に深い懸念を呼び起こした。
折しも、貿易戦争が激化の度合いを深めている中での発言である。
「日本の真意はどこにある」とした警戒感が米国に生じたのは当然である。
今後、新防衛大綱との矛盾や曖昧な点を米国から指摘されかねない。
こうした中でのトランプ大統領の「日本タダ乗り」発言である。
日本は、ますます激化していく米中の覇権争いという現実の中で、傍観者の立場でいることは許されなくなるであろう。
さらに、国内においても、安全保障の脅威に中国の軍事力があることを明確化し、中国とは「戦略的競争関係」にあることを国民に認識させなければならない。
尖閣諸島などへの領海侵犯といった明確な敵対行為が止まない限り、警戒を緩めるわけにはいかないのである。
次回、米軍のアジア戦略の要を解説し、日米が明確な軍事同盟に進むのか否かを述べたい。