抑止力という名の軍事力(10)

2021.02.28


本メルマガで何度も述べていますが、政治体制に関係なく国家の軍事力を支えているのは経済力です。
日本を含めた西側諸国は、経済が豊かになれば独裁国家も自然に民主主義に移行すると信じていました。
しかし、中国の現状は、そんな理屈など成り立たないことを証明しています。
歴史の事実からも、「自然に民主主義・・」など幻想に過ぎないことは容易に分かります。
戦前の日本やドイツは経済発展に伴い独裁制が強まり、侵略国家へひた走りました。
両国のいまの民主主義は、自発的なものではなく、軍事的敗北の結果、欧米から移植されたものです。
その欧米ですら、民主主義が根付くまでどれほどの血が流れたことか、知らない人はいないはずです。
なのに、どうして単純な平和主義が主流になり、現代の中国のような巨大な独裁国家の台頭を許してしまったのでしょうか。
それだけ、中国の指導者(特に、トウ小平)が賢く欧米を騙した結果でしょうか。
そこを深く考える必要があります。
 
民主主義は、ガラス細工のような脆さ(もろさ)を持つ政治体制です。
ゆえに、国民に対し、この脆さを自覚させる啓蒙教育が欠かせないのです。
ところが、我々団塊世代は戦後教育で、逆に「民主主義は強い」と教わり、戦前の日本は“民主主義の強さ”に負けたと教わりました。
しかし、それは真っ赤なウソだったのです。
日本は、米国の経済力に支えられた軍事力に負けたのです。
米国の民主主義に負けたのではないのです。
もちろん、米国の強さは民主主義に支えられた米国民の意志の結集とも言えますが、それは米国式の啓蒙主義の効果であり、民主主義自体の強さではありません。
そのことは、トランプ政権下で広がった米国民の分断を見れば、容易に分かります。
あの姿こそ民主主義の脆さの現れなのです。
 
バイデン新大統領が「自分に投票しなかった人たちも集まって欲しい」と呼びかけているのは、民主主義の脆さを痛感しているからであり、今後の米国政治の方向を見定めるキーワードの一つです。
となると、バイデン政権の政策は非常にオーソドックスな手法になるとの予想がつきます。
中国に対しては強行姿勢が続きますが、トランプ大統領のような子供じみた政策は取らないでしょう。
同盟強化の宣言が示すように、米欧日にインドやオーストラリアを含めた経済・軍事連合を再結集し、軍事力を高めた民主主義で中国の進出を抑える戦略を強化するはずです。
 
しかし、中国も黙ってはいません。
この包囲網を破る戦略を練っています。
その第一のターゲットは最も脆い韓国ですが、メインターゲットは日本です。
日本を中国の味方にすることは無理でも、米国との仲に亀裂を入れさせ、あわよくば中立的な立場に置こうと、硬軟取り混ぜた戦術を繰り出しています。
これは、日本の戦国時代末期、羽柴秀吉が得意とした戦術です。
明智光秀の盟友だった細川藤孝を自分の敵に回さない手法や賤ヶ岳合戦で柴田勝家の配下だった前田利家を籠絡(ろうらく)した手法です。
それは、「味方になれ」ではなく「中立を保て」という説得法です。
 
単純な攻撃力と違い、抑止力は外交力と軍事力の両輪のバランスで発揮する力です。
尖閣を守り抜く軍事力の強化と併せ、菅首相には、中国寄りの二階幹事長を使いこなす力量が求められます。
二階氏の中国とのパイプは、危険であると同時に、使える武器でもある両刃の剣です。
首相のお手並み拝見ということです。