抑止力という名の軍事力(6)

2020.11.02


近年、ミサイルの性能がどんどん高性能化してきています。
核ミサイルの多弾頭化は当たり前で、航空機搭載型で2000km以上もの超遠距離から襲うミサイルや真上に近い高空から一気に襲う極超音速ミサイルなど、防ぐことが難しいミサイルが次々に開発されています。
しかも、こうしたミサイルの開発は、ロシアや中国、北朝鮮といった日本を攻撃する可能性の高い国々が熱心に取り組んでいて、日米は遅れているという懸念が大きくなっています。
特に日本は、専守防衛を謳っていることで、弾道ミサイルや巡航ミサイルなどの攻撃目的のミサイルの開発に制約がかかり、短距離のミサイルしか持っていないのが現状です。
 
「最強の盾と最強の矛は同時に存在し得ない」という中国の故事からとった「矛盾」という言葉を知らない方はいないでしょう。
専守防衛という日本の防衛概念は「矛を持たず盾だけで守ろう」というものです。
しかし、高性能化する一方の中国やロシアの攻撃ミサイルを果たして「イージス」という盾だけで防ぐことができるのでしょうか。
 
どんな鍵でも開けてしまう泥棒とどんな泥棒でも開けられない鍵を作る鍵屋の話もよく聞く話ですが、物語やドラマでは、だいたい泥棒が勝ってしまう結末が多いように思います。
また、「攻撃こそ最大の防御」という言葉もよく聞く言葉です。
 
では、「日本も攻撃用の弾道ミサイルを持つべき」と言いたいのかというと、そうではありません。
冷静に、また合理的に日本の防衛を考えるべきと言いたいのです。
そもそも、日本が中国の核ミサイルを防ぐこと自体できないわけです。
かといって、抑止力として日本が核ミサイルを持つこともできません。
故に、攻撃力としての抑止力は米軍の核戦力に頼るしかありません。
日本が核兵器禁止条約に賛成できない理由もここにあります。
 
抑止力戦力としての自衛隊の役割の一端は、この米軍を守ることにあります。
在日米軍の防衛戦力は、空母を守るイージス艦以外は脆弱です。
日本の自衛隊に頼る部分が大きいからです。
海上での戦闘が主になる日本防衛の性格から、主役は海上自衛隊と航空自衛隊となりますが、今後予定される南西諸島に配備される防衛ミサイル網は陸上自衛隊の管轄になります。
この陸海空の共同戦略こそ、これからの日本防衛の要となります。
 
当然、平和主義の人たちは「けしからん」と批判されるでしょう。
中国でも、日本のような平和活動が自由にでき、同様の声が政治に届くならば、こうした批判に賛同したいですが、現実は真反対です。
日米安保を堅持し、自衛隊の盾と米軍の矛の効果的な連携によって、中国が軍事侵攻を諦めるような抑止力を強化する以外に道はないのです。
 
昨年だけで947回という異常なスクランブル出動や尖閣海域への執拗な侵入が示すように、日本に対する中国の威嚇は増す一方です。
明らかに海上保安庁や自衛隊に対する圧力を加速させ、守ることしかできない日本の疲弊を誘う戦略です。
こうした事実から、もはや純粋な防衛力だけで日本を守り切ることが不可能な時代に入ったことを自覚するべきです。
 
安倍政権の残した「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、前首相の最大の功績といえるかもしれません。
この構想は、中国の歴史に煩雑に登場する合従連衡(がっしょうれんこう)そのものといえます。
歴史では、短期間に終わってしまった例が多いのですが、アジアにおいて日本が扇の要の役割を果たせれば、大きな効果が出ることが期待されます。
次回はこのことを論じたいと思います。