これからの近未来経済(13):山なり多重回帰曲線型経営(その4)
2021.12.16
弊社は、改善期から改革期に入った時期に始めた新規事業が好調に推移したことで、新たな成長軌道に乗ったように見えました。
しかし、改革に伴って起きる負の側面を軽視したことが大きなツケとなって数年後に降り掛かってきました。
新規事業の好調さと裏腹に、既存事業が頭打ちから衰退局面に入り、赤字状態に陥ってきたのです。
もちろん、経営数字の把握はしていましたが、自分自身を前線での仕事に100%近く投入していたため、経営管理の仕事に割く時間が激減し、当時の専務に任せっきりになっていました。
というより、新規事業の売上の伸びに幻惑され、既存事業の悪化に目をつぶってしまったのです。
しかし、その頃の社員の大半は既存事業に所属していました。
新規事業が特殊過ぎたため、そちらに移行できる社員は限定され、社員の多くは既存事業の赤字を膨らませるだけの存在となる現実がのしかかってきました。
今では理解していますが、「山なり多重回帰曲線」理論では「改革期」の先は「危機領域」になっているのです。
つまり、改革期においては、新規事業への挑戦や事業再編が必要なのですが、その成否とは別に行うべきことがあります。
それは、経営構造全体を根こそぎ変えることです。
製造業なら生産設備の一新や工程の全面改変、サービス業なら業態やターゲット市場を根こそぎ変えることなどです。
いずれも問題になるのが、このような劇的な改革に付いてこられない社員の処遇です。
つまり、人事や給与体系などに“大なたを振るう”ことが必須なのです。
私は、そうした自覚も無しに無為に時間を浪費しただけで、3年でいきなり業績の大幅低下という事態を迎えました。
今でも、この3年間の己の未熟さを嘆きます。
そのため、苦境は深刻化し、給料の遅配に至り、社員はどんどん辞めていきました。
何より、幹部社員たちから先に辞めていく現実に自分の甘さを思い知りました。
私は、この時から「社長を支えます」という言葉を信じなくなりました。
ただし、彼らが悪いというつもりはなく、自分の甘さを忘れないためです。
しかし、このどん底状態の中で「山なり多重回帰曲線」理論に至ったことを考えれば、プラスとマイナスの両面はどんな場合にもあるのです。
この理論には、企業が各段階に至ったことを認識するための点数付けがなされています。
「成長域」から「改善域」に入ったことを認識する点数、さらに「改革域」に入ったことを認識する点数、そして「危機領域」に落ちたことを示す点数があります。
これらの点数を算出する明確な算法があり、私は、これを何度もアレンジして使っています。
実は「危機領域」のさらに下があり、それを「整理領域」と呼びます。
そうです、文字通り、会社を整理する段階に入ったことを意味します。
ここまで来ると、もう会社を救う道はなく、被害を最小限に抑える策の実行があるのみです。
私は、「整理領域」の手前の「危機領域」に陥ったならば、会社を整理すると決めました。
弊社では、この算法をプログラム化してシステムに組み込んでいます。
かなり複雑な計算と条件設定が必要なので手計算では難しく、弊社はシステムが算出する点数を受けて経営方針を決めています。
しかし、この理論を理解したからといって好転するほど、経営は甘くありません。
弊社は、その後も低迷が続き、点数は悪化していきました。
やがて、自分の感覚では「もうダメだ」というところまで追い込まれました。
そして、会社を整理する覚悟を決めて、このシステムの分析結果を見ました。
てっきり「危機領域に落ちている」という点数が出ると思い、会社整理の準備まで始めていました。
ところが、予想に反し、ギリギリ「危機領域」に落ち込む寸前の点数が出たのです。
思わず天を仰ぎ、「これは、天が『まだ頑張れ』っていうことか」と思いました。
この続きは、また次号で。