価格競争に勝てる『建設生産システム』(4)適正価格の怪

2013.04.30

「生産システムで価格競争に勝つ」2つの要素、
(1)「社会情勢の変化」
(2)「劇的な技術革新」
企業においても、この2つが縦糸と横糸のように交差するところに大きなチャンスがあります。

たとえば、国交省が「労務単価を15~16%上げる」と発表しました。
これは、(1)「 社会情勢の変化」に他なりません。
ですが、受注する建設会社が、これに、(2)「劇的な技術革新」を交差させなければ、価格競争に勝てる『建設生産システム』を作ることは出来ず、大きなチャンスをものには出来ません。

今、建設業界では「適正価格」なる言葉が氾濫しています。
ですが、具体的に「適正」の中身を解析した評論や意見を見たことはありません。
公共工事で、発注者の提示する設計価格が「適正」であるならば、価格競争はあり得ないわけです。
応札する各社は、「我社の提示する適正の具体的な中身はこうです」と、価格以外の要素の質を競い合う競争になるはずです。
しかし、「総合評価」には、厳然と「価格提示」の項目が残り、かなりの比重を占めています。

まして、民間工事では、「一番安い=適正価格」が大手を振っています。
業界団体が「ダンピングをやめよう」と決議しても、どこか1社がダンピングすれば、それも有名無実と化します。
特に、新参企業が受注しようと思えば、低価格以外の武器はありません。
また、必死のコストダウンで他社より20~30%安くできたことを「ダンピング」とは言えないわけです。
「価格競争がなくなる日は来ない」と腹をくくるしかないと思います。

賃貸マンションなどで画期的な製品を出して成功している企業があり、インタビューなどで、「うちは価格競争なんてしない」と豪語する記事を目にしたり、直接聞いたりします。
だがそれを鵜呑みにしてはいけません。
ニッチな市場を見つけ、自社だけしか受注出来ない仕組みを作れば、他社との「価格競争」はなくなります。
しかし、その場合でも、お客様との「価格競争」はあるわけです。

また、このような企業の成功は、冒頭に挙げた、(1)と(2)の交差点で勝負に出た結果なのです。
たとえば、女性専用の賃貸マンションという市場は、働く女性が増え、それも一定の収入水準にある女性が増えたという (1)「社会情勢の変化」です。
これに、「かわいいイメージのマンション建築」という (2)「劇的な技術革新」を組み合わせたわけです。
(1)は企業努力ではいかんともし難いですが、(2)は企業努力そのものです。
ですが、(1)を無視した努力では意味がないわけです。

こんな単純なことが分かっていない企業、経営者が多いのです。
また、分かっていても、情報収集力、情報分析力、発想力(想像力)、論理的な事業構築力、そして推進力といった素養を持ち、日ごろから、その実現への努力と試行錯誤を実践していなければなりません。
その継続が難しく、出来ないのです。

では、国交省が「労務単価を15~16%上げる」とした、(1)「社会情勢の変化」をどう分析して、自社の(2)「劇的な技術革新」に結び付けるのか、という命題に取り組んでみましょう。

分かり切ったことですが、営業中の民間のお客様に「国交省が労務単価を15~16%上げるので、我社も上げます」と言ったところで、受け入れられる確率はほとんど無いでしょう。
ですから、専門工事会社の団体が「適正価格での受注をゼネコンに要求する」と決議しても、ゼネコンが応じられる原資がないわけです。
批判されることを覚悟で言いますが、「こんな決議、何の意味もない」と言わざるを得ません。
この決議には、(2)「劇的な技術革新」のかけらも見えないからです。
そうではなくて、ゼネコンとの間で、設計および施工のやり方を一から組み立て直し、仕事分担・責任分担、工程責任、品質責任などの要素を明確にしていき、コスト上の無駄を最小に抑える「劇的な技術革新」に取り組むべきなのです。
根拠のない安易な決議でお茶を濁しても何も変わりません。

まさに価格競争に勝てる『建設生産システム』を作ることなのです。
国交省の「労務単価・・」は、材工分離がその大きな要素であることを、(1)「社会情勢の変化」の面で示したのです。
この考え方は、クッションゼロの世界です。次回からは、価格競争に勝てる『建設生産システム』の造り方をお話ししましょう。