これからの中小企業の経営(10)
2024.10.02
「正奇詭」は、兵法書「孫子」で説かれている戦術を凝縮した言葉で、様々な箇所に登場する言葉です。また、古代中国の他の思想書にも登場する言葉です。
例えば、「老子」には以下の言葉があります。
「正を以て國を治め、奇を以て兵を用ひ、無事を以て天下を取る」
まさに、国家を治める基本の考えを示す言葉です。
私が先生について孫子を学んだ際、実際の軍事作戦においては、正面から敵を攻める「正攻法」と側面あるいはゲリラ戦法で敵の弱いところを攻める「奇攻」の組み合わせ方法が優劣を決めると教わりました。
「たしかにそうですね。では詭とは?」の問いに、先生は「敵を欺くことで、典型的な例は敵の中枢幹部の中に裏切り者を作ることだ」と教わりました。
たとえ、敵の重要人物が実際には裏切らなくとも、トップに「あいつは裏切り者ではないか」との疑念を抱かせる謀略も「詭」の戦術だということです。
孫子の兵法を駆使した戦国大名には、武田信玄などの名前が上がりますが、最も有名なのは中国地方の覇者となった毛利元就です。
元就は、最後の大敵、山陰の尼子を倒すため、この詭計を使いました。
尼子の中でも最も勇猛果敢な最精鋭部隊である新宮党が裏切ったかのような策を弄し、ついに尼子本家が新宮党を滅ぼすという事態を作ったのです。
もちろん、その後、元就はやすやすと尼子の居城月山富田城(がっさんとだじょう)を落とし、中国地方の覇権を確立したのです。
この例は、「詭」の極端な例ですが、「孫子」は「兵は詭道なり」と教えています。
孫子における「兵」は、兵隊や軍隊を指す言葉ですが、「戦争」を指す場合もあります。
上記の「詭道なり」は、明らかに戦争を指しています。
つまり、戦争においては、状況に応じて作戦を変え、敵を騙すことの重要性を説いた言葉なのです。
歴史の話が長くなりましたが、こうした先人たちの教えや行動を、現代の中小企業の経営者は、どう活かしていけば良いのでしょうか。
お客様を「詭計」で騙すことは・・、これはまずいですね。
でも、ライバル企業を「詭計」で出し抜くことは「あり」でしょう。
しかし、乱発はいずれ大きな「しっぺ返し」を食らう恐れがあるので、本当に「最後の手」として温存すべきかと思います。
現代のビジネスは、ITの急激な普及による「情報革命」の渦の中にあります。
中小企業といえども、近代の武器であるIT投資に後ろ向きになるわけにはいきません。
鉄砲が登場した戦国時代後期に、槍や刀だけで武装するのと同じようなことになってしまいます。
しかし、IT投資には大きな魅力がある反面、大きな危険が潜んでいます。
こんなことは、みなさん「分かっているよ」と言われるでしょうね。
では、以下の事象をどう思いますか?
9月の第1月曜日は、米国ではレイバー・デー(Labor Day)と呼ばれ、労働者の社会的および経済的成果を称える連邦祝日になっています。
この直後の9月3日の株式市場で、AI向け半導体メーカー大手のエヌビディアの株は9.5%下落しました。
この1日で、2789億ドル(約40兆5000億円)が吹き飛んだ計算です。
下落の原因は、米国の著名な業界アナリストの2人が「AIを取り巻く熱狂は行き過ぎだ」と懸念を提起したことにあります。
AIとかDXは、まだまだ幻想の世界といえる段階です。
この話、前号から2回連続で休んだ「2024年からの展望(2):責任あるAIってなんぞや?」に、次号から繋げていきます。
今後のIT投資の参考にしていただければと思っております。