AIは果たして人間社会に益をもたらすのか (1)
2016.08.18
将棋や囲碁の世界でAI(人工知能)が人間の名人を相次いで破ったかと思えば、自動車の自動運転までが実用化寸前です。
一方で、仮想画面と実写画面を組み合わせた世界で遊ぶ「ポケモンGO」が社会現象を引き起こしています。
我々は、漫画家の手塚治虫氏が描いた未来社会の入り口に立っていると思って良いのでしょうか。
しかし、そうした未来への高揚感より不安のほうが大きく感じられるのはなぜでしょうか。
かつて、大ヒットしたSF映画の「ターミネータ」や「マトリックス」は、ともに絶望的なAI未来を描いていました。
そうした世界へのイヤな予感が我々を不安にさせているのでしょうか。
今号から数回に渡って、少し考えてみたいと思います。
AIと様々なロボット技術の飛躍的な進歩と普及は、これまでの不可能を可能にし、多くの労働から人間を開放するという夢を実現することは確かです。
内外のIT企業のトップはバラ色の未来を熱く語りますが、大衆は、スマホ漬けになりながらも、どこか同調し切れない気持ちを感じているようです。
それは当然です。
AIが日常生活の隅々にまで浸透していくことで、多くの職業が消え、大量の失業者を生むということが現実化するからです。
例えば、自動運転の実用化は、タクシーやトラックの運転手という職業を消し去ってしまうでしょう。
実際、1990年代のIT革命では、インターネットに接続されたパソコンと各種の事務系ソフトウェアが、それまでの事務労働の劇的な効率化や省力化を実現し、大量のホワイトカラーが失業しました。
同時期に出てきた外食産業やコンビニ等のサービス業が普及したことにより、多くの失業者は救われてきましたが、それらの職業の多くは正規雇用とはならずに、非正規雇用の増大を招いています。
しかも、これから起きるIoT(Internet of Things)と呼ばれるAI化は、従来の計算や記録の代行といった定型的な事務作業ではなく、高付加価値作業であった複雑な作業や分析系の作業までもが人間の手を必要としなくなるのです。
つまり、医療、法律判断、投資運用、金融審査などの知的作業の多くまでがロボット化されるのです。
劇的な生産性革命の実現と引き換えに職を失う人たちが急増するというわけです。
やがて建設工事の現場からも人が消えるでしょう。
こうした劇的に見えるシステムの進化は突然に起きたものではありません。
筆者は、40年以上昔、コンピュータ会社で防衛システムの開発に携わっていました。
ソフトの世界でいえば、その頃、すでにAI化は実現出来ていたのです。
人間に代わってプログラムが多種多様な情報をリアルタイムに分析し、最適な攻撃方法を考え、人間に指示するところまで出来ていたのです。
最後のボタンだけは人間が押していましたが、実戦演習に立ち会った時には自分の背筋が寒くなったことを今でも鮮明に覚えています。
ただ、そのシステムを民間に応用するにはコスト的にとても割が合いませんでした。
あの頃は、採算を度外視する軍事の世界だけで実用化できていたのです。
それが、40年経って民間でもコストが成り立つようになってきたのです。
一気に普及してきたのは当然といえます。
ソフトで行う機械学習の基礎は、確率・統計の理論です。
その意味から言えば、実は、基礎理論は40年前からたいして進化していません。
ただ、統計から確実性の高い推論を導くには、とにかく多くの、それも正確なデータが必要です。
それが、近年の情報化社会の劇的な広がりで、大量のデータを集めることは容易になりました。
あとは正確性をどう高めるかですが、いわゆる”ゴミ”データを取り除くアルゴリズム(プログラム技術)の発達で、実用化レベルになってきたのです。
(中国では、この”ゴミ”排除を大量の人力で行っているそうですが、それも驚きです)
これを最近の用語で言うと、「ビッグデータ解析」となるわけです。
さて、技術的な解説はここまでにして、こうしたAIが人間社会をどのように変えていくかを解説したいのですが、それは次号で。