商品開発のおもしろさ(2)
2020.08.17
古今東西、最先端の商品が兵器であることに異論がある方は少ないと思います。
「兵器を商品とするなど、けしからん」と思われる方もおられるでしょうが、ここは善悪を論じる場ではなく、商品開発のおもしろさを論じる場なので、ご容赦ください。
ドイツが誇る自動車会社のベンツを知らない人はいないでしょう。
でも、ベンツの本当の凄さは、高級乗用車にあるのではなく、トラックにあります。
自動車通の方はご存知と思いますが、多目的トラックの「ウニモグ」の軍用車の中には、登坂能力60度(公式には45度)という驚きの性能を持つ車種もあるとか。
これが真実か否かは確認していませんが、とんでもない数字です。
私は、大学時代、冬はスキー場でパトロールのバイトをしていましたが、雪上車を運転して38度の斜面を下ったことがあります。
真っ逆さまに転げ落ちるのではないかと思う恐怖を味わいました。
また、スキーで60度の斜面を滑った経験もありますが、滑るというより落下している感覚でした。
そのような斜面をトラックが登るというのですから、「信じられない!」というしかありません。
この60度が本当でなくても、追随する競合車がないことから生まれた話といえます。
こうした神話を生み出す力がベンツの真の力なのです。
また、「商品開発の面白さ」は「ウニモグ」のような商品のユニークさと並んで、企業としては「儲かる」ことが大きな要素であることに異論はないと思います。
唯一無二と言われるほど優れた兵器には競合がないので、値段は売り手側の言い値になります。
私は、かつてSEとして最新の軍事システムの開発に関わった時、担当営業に聞きました。
「このシステム、どのくらい儲かった?」
彼の答えは「粗利80%」でした。
でも、この利益を“不当利益”だとは思いません。
所属していた会社が積上げてきたノウハウと経験、それとチーム員の頭脳と努力の結晶であり、競合はいなかったのですから当然の利益です。
民間案件では、なかなか、こうはいきませんが・・
商品としての兵器を論じる時、もうひとつ大事な要素があります。
「優秀な兵器とは戦場の要求から開発されるもので、机上の妄想や見栄からは生まれない」という要素です。
この要素は、我々の開発する民間商品にも当てはまる大事な原則です。
つまり、「優秀な商品とは市場の要求から開発されるもので、机上の空論や見栄からは生まれない」ということです。
多くの会社は「そんなこと分かっているよ」と言いながら、手前勝手な妄想や見栄が先行する例は後を絶ちません。
偉そうなことを言っていますが、弊社においても、そうした商品開発の失敗は山のようにあります。
一時は、それで倒産寸前まで追い込まれましたので、笑い話にもなりません。
でも、商品開発に失敗はつきもので、「失敗は成功の母」なんてことも言いますから、「どっちなんだよ」とツッコミを入れたくなりますね。
そんな失敗例に面白いものがあります。
「多砲塔戦車」という代物です。
普通、戦車の砲塔は1門だけです。
それを「海に戦艦があるのだから、陸の戦車にも複数の砲塔があってもおかしくないだろう」との発想で、実際にドイツで「5つの砲塔と4つの機銃座を持つ」戦車が造られました。
乗員は、実に11名も必要で、重量は69tもありました。
もちろん、結果は惨憺たるものでしたが、こうした失敗の積み重ねが、第二次大戦中、最強といわれるティーゲル戦車を生み出し、戦後のベンツやポルシェにつながっていくわけですから、まったくの無駄ではなかったわけです。
だから、企業も、時にはこうした「アホらしい」商品開発に挑戦することも必要なのだと思います。
ただし、財政的な余力を考えた上であり、撤退条件を絶対に守るという歯止めは必須ですが。
こうした夢想商品は、考えるだけでも面白いので、私は、時々、一人で設計したりしています。
こうなると、仕事ではなく趣味かもしれませんね。