今後の建設需要(25):DX・・できるの?

2022.03.14

国交省が以下の政策を打ち出しました。
「DXセンターに3次元データを作成・編集できるソフトウェアを搭載し、ソフトウェアの提供者が利用者から料金を徴収する仕組みの構築を目指す。
BIM/CIMソフトウェアを保有していない建設企業がこの仕組を使うことで、進まない3次元データのDX化を推進する」
この記事に見られるように、昨今は国交省の前のめり姿勢と業界紙のDXオンパレードの記事が目立ちます。
しかし、業界の実態を見る限り、とてもオンパレードのようには見えません。
私見ですが、システムデータのDX化が建設業界で一般化するのは、かなり遠い未来となるでしょう。
 
40年前、私は建設会社でCAD導入の責任者の立場でした。
前職がコンピュータメーカーのSEだった経験から、通信回線を介してお客様とCADデータを共有するなどの技術で、大きなメーカー案件の受注につながったこともあります。
 
こんな昔話をするのは、あれから40年も経つのに、たいして進化が進まない建設産業のシステム化の現状を見るからです。
製造業に比べ大きく遅れている原因が業界の構造にあることは、みな分かっています。
しかし、その構造には微々たる変化しか現れていません。
DXという言葉だけが踊る記事を読んでいると、40年前と何も変わらない仕事環境に思いが飛ぶわけです。
冒頭に挙げた国交省の目論みなど、すぐに霧散してしまうでしょう。
言い方は悪いですが、私には「官僚の浅知恵」としか思えないのです。
多くの人は、口には出しませんが、業界全体に「DXへの抵抗感が強い」ことを分かっています。
いや、抵抗感というより無力感あるいは「虚しさ」といったほうが的確かもしれません。
システム化やDXに反対というわけではなく、「総論賛成、各論反対」の空気が業界を占めているのです。
 
無理もありません。
本当にDXが業界の常識となったら、従来の慣習や利害関係が根こそぎ変わってしまうからです。
その後にどんな世界になるか、自社がどうなるか・・
そんな想像もできない世界を望む者など、この業界に“どのくらい”いるというのでしょうか。
 
建設産業の重層下請け構造の闇は深く、利害を制する者の支配は崩れていません。
重機メーカーや鉄骨加工業など、現業に即したデジタル能力を持つ企業は、縦の産業である建設産業の下位に位置しています。
そのため、DXによる期待利益の多くは上位企業に吸い取られるだけの恐れがあり、そのノウハウの公開には後ろ向きです。
また、デジタル化が進展してくれば、消えゆく企業も相当の数に上るでしょう。
 
どの産業でも、業界全体の利益を考える力を持つのは、トップに君臨する大企業です。
しかし、建設産業のトップに位置するスーパーゼネコン5社にそれだけの力があるでしょうか。
残念ですが、自動車産業におけるトヨタのような力量も大きな戦略もありません。
5社が悪いというのではなく、企業規模や市場占有率が小さすぎるのです。
大手5社に準大手・中堅の10数社を加えて、2~3社に集約されるような劇的な業界再編成が成れば可能かもしれませんが、「ムリだろうな・・」と思うしかありません。
また、それが正解ともいえない難しさがあります。
さて、どうしたものでしょうか・・