経済と政治(3):中国の今後
2016.06.17
多くの戦争は、経済と政治の整合の乱れから起こります。
第3回の今回は、現代の日中関係の続きをお送りします。
前号では、国が豊かになると国民の権利意識が上がって民主主義に移行し、民生を圧迫する軍事費の増大は思うようには出来なくなるはずが・・中国が、なぜそうならないかの疑問で終わりました。
その答えは、中国政府自らが説明しています。
GDPは世界第二位になったが、「国民一人当たりでみれば、まだ開発途上国である」とです。
もっと言えば、GDPが日本を抜いたことも“怪しい”かもしれないのです。
中国の発表する経済数値が信用出来ないことは、今や世界の常識です。
おそらく、中国政府自身も自国の数値を信用していないのだと思います。
全人代で今後の経済政策を発表した李克強首相の苦しい表情が、それを物語っています。
困難な時ほど、正確な情報が必要です。
これは古今東西の普遍的な原理です。
戦前の日本も、米国から経済的な圧迫を受けて苦境に立っていました。
しかし、正確な情報を把握し、国民に示すという基本を怠りました。
逆に「大東亜共栄圏」なる夢物語を国民に吹き込み、「イケイケドンドン」路線をひた走ったわけです。
その結果としての開戦、そして敗戦でした。
私には、習近平政権が掲げる「一帯一路」という中国の夢は、戦前日本の「大東亜共栄圏」とそっくりに重なって見えます。
欧米が築いた世界秩序への挑戦という図式まで、そっくりです。
ということは、戦前日本の轍(てつ)をそのまま踏んでいるのではないかということです。
中国はイヤがるでしょうが、中国には安倍首相の「戦後70年談話」の以下の部分をしっかりと読んで欲しいものです。
「(米国による経済封鎖という事情はあったが)満州事変、そして国際連盟からの脱退と、日本は、次第に国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした新しい国際秩序への挑戦者となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました」
安倍首相の本心か否かは別にして、この言葉は真実です。
経済的行き詰まりを、軍事力を背景にした強引な政策で打開しようとしている今の中国は、戦前の日本と同じです。
中国の指導者たちがそこまで愚かだとは思いませんが、引き返せなくなる時点というものがあります。
戦前の日本は、米国から石油禁輸を受けたことで、「石油が無くなる前に米国を叩こう」との逆発想になり、真珠湾を攻撃しました。
「真珠湾攻撃は米国の罠だ」という意見もありますが、冷静に考えれば分かることです。
各種経済データで5~10倍以上の国力差の国に戦争を仕掛けたのです。
「愚行」でなければ、何というのでしょうか。
経済差を考え真珠湾攻撃を思いとどまれば、戦争は避けられた可能性が大です。
真珠湾攻撃の決断が「引き返せなくなる時点」だったのです。
(歴史に「たら」「れば」は無いことは分かっていますが・・)
中国政府は、まずは、正確な経済データの把握に全力をあげ、その結果を国民に示すべきです。
それが戦争を回避する一番の道です。
メンツを重んじ、中国の夢の錯覚から覚めない習近平政権には無理だと思いますが、「経済と政治の不整合が戦争の引き金になる」という歴史の教訓は分かって欲しいと思います。