戦争を起こさせない二つの仕組み(3)

2016.11.02

前号では、「戦争を回避する方策は2つの戦略に集約されている」とした国際政治学の以下の見解の1番と2番を解説した。
1.有効な同盟関係を結ぶ(戦争リスクの軽減効果40%)
2.相対的な軍事力を保持する(同、36%)
3.民主主義の程度を増す(同、33%)
4.経済的依存関係を強める(同、24%)
5.国際的組織への加入(同、24%)
(数値はいずれも標準偏差なので、合計100%を超える)
 
今回は、「軍事力の均衡」を重視するリアリズム戦略以外の、「経済的要素や、国際的組織および各国の政治体制」を重視するリベラリズム戦略の解説を行う。
 
3.民主主義の程度を増す
これが一番難しい策と言える。
日本と関係が悪化している中国や北朝鮮は、独裁国家で民主主義を明確に否定している国家である。
国際政治学の世界では「カントの三角形」と呼ばれる有名な理論がある。
それによると、民主主義の程度が低い国ほど戦争をしやすくなるという。
それは当然である。
国民が反対でも、独裁者の「鶴の一言」で戦争できるのだから。
 
日本にとって目下の最大の危険は、北朝鮮ではなく中国である。
近年、とみに独裁強権的政治を強めている習近平政権の中国の危険性は、多くの国民が感じていることである。
最近の動きを見ていても、本気で尖閣奪取を狙っているのではとの疑念は消えない。
 
残念ながら、今の中国政府に尖閣奪取や南シナ海の支配を断念させる妙策はない。
だから、万が一の軍事侵攻に備えることは当然としても、文化交流や観光を通じて民主化の風を中国国民に送り続けることが一番の策であろう。
そして、侵略は勿論のこと、たとえ防衛戦争であっても「戦争は国民に不幸をもたらす」ことを中国国民に理解させる努力を継続することである。
外国との文化的つながりの素晴らしいことを感じさせ、政治の主役は国民なのだということを実感させる、息の長い取り組みが必要である。
 
4.経済的依存関係を強める
これは、日中両国を例に取るまでもなく、先進国同士はそうなっている。
どこの国同士であれ、お互いに戦争をしたら大損害が出る関係になっている。
好戦的思考の強い現在の中国政府とて、そのことは十分に理解している。
ゆえに、TPP(環太平洋経済連携協定)や日中韓FTA(自由貿易協定)を進め、やがてそれらの協定をひとつにして、太平洋を「自由経済の海」にすることが環太平洋からアジア全域が平和で豊かになる道である。
しかし、成り行きとは言え、米国の大統領候補は二人ともTPPに反対を表明している。
そもそも日本にTPPを迫ったのは米国である。
「身勝手もいいかげんにしろ」と言いたい。
 
5.国際的組織への加入
最近の中国は、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」など自らの影響力を行使できる国際機関を独自に創設しているが、これは将来の波乱要因となる大きな問題である。
AIIBが中国に有利な投資決定を行うことは明らかであり、やがて行き詰まると思われる。
そのときの混乱を考えると、短期的な利を求めて続々参加した日米以外のG7各国は無責任である。
 
南シナ海における常設仲裁裁判所の裁定を無視する動きなど、中国が国際的組織の決定に背を向けていることは、平和に対する明らかなマイナス要因である。
今後、中国が、さらに国際社会での孤立を深めるようであれば、戦争が起こるリスクが増え、やがて、かつて日本が歩んだ道の悪夢が現実になってしまうかもしれない。
 
しかし、国際社会は、多国間の協力で中国の野望を封じ込めながら、一方で対話や交渉で忍耐強くアジアの平和体制を維持することに努力すべきである。
 
 
3回に渡って「軍事力の均衡」を重視するリアリズム戦略と「経済的要素や国際的組織および各国の政治体制」を重視するリベラリズム戦略の2つの戦略を個別に解説してきた。
 
日本での国会論議や国民意識を見ていると、ベストの答えを巡って不毛な議論が続いている。
「戦争はいやだ」と言うだけで戦争は防げないし、ハリネズミのような軍事国家になっても国は安全にならない。
国民は、上記の2つの戦略のどちらか一方の戦略を採るかの「選択問題」ではなく、どう組み合わせるかの「ミックス問題」だということを理解せねばならない。
そして、それは感情を排した論理で議論されなければならないのである。
自分が、野党に代わって国会で政府にこうした論戦を挑んでみたい誘惑に駆られることもあるが、政治の世界は最も入りたくない世界ですね。