これからの近未来経済(19):家計は値上げを許容している?

2022.07.19

日銀の黒田総裁が「家計は値上げを許容している」と発言して批判を浴びました。
すると、“あっさり”と撤回してしまいました。
しかし、日銀のホームページを見れば分かるように、発言自体は間違いではありません。
データは「家計が値上げを受け入れる割合」が、昨年8月の43%から今年4月には56%に増加していることを示していますから。
黒田総裁は、野党やマスコミの揚げ足取りが面倒になり、発言を撤回したのでしょう。
あるいは、参院選前の国会で「真の問題点を議論したくなかった」と考えたのかもしれません。
 
新型コロナ禍による行動制限で「強制貯蓄」と呼ばれる「使わないことで自然に増える貯蓄」が増えていることは事実です。
黒田総裁は、このデータをそのまま述べれば良かったのに「家計が値上げを許容・・」と余計なことを言ってしまったのです。
おそらく、スタッフが書いた原稿をそのまま言ってしまったのでしょう。
 
総裁の発言全体は、マクロ経済全体を見渡した内容で正論でした。
しかし、野党は失言のように見える“わかりやすい”部分だけを取り上げ、それを全体の主旨のように思わせる、いわゆる「ストーリー・テラー」手法を使って、批判します。
それは反論ではなく、難癖を付けているに過ぎず、政治家としては恥ずかしい行為です。
国会で黒田総裁に「買い物をしたことがあるか」と質問した野党議員がいましたが、呆れるばかりです。
 
マスコミ報道は、それに輪をかけてひどいものです。
一部の品目の価格上昇だけを示して、全体の「物価」が上がっているように国民を誘導しています。
そもそも、エネルギー価格や食品価格の上昇などは、ウクライナ侵攻が主要な原因で、政府の責任とは言えません。
エネルギーと食品を除いた4月の消費者物価指数上昇は、対前年比0.8%にすぎません。
それなのに、立憲民主党の泉健太代表は、衆院予算委員会で「物価高対策として金利引き上げを検討すべきだ」と政府に要求しました。
こんなことをしたら、住宅ローン金利が上昇して家計を圧迫、中小企業の倒産なども増えるでしょう。
どうしようもない経済音痴ぶりというしかありません。
 
必要なことは、物価の値上げ対策ではなく、マクロ経済の上昇を導き、本格的な賃金上昇につなげる政策の立案と早期実行です。
具体的には、黒田発言にある「家計が値上げを受け入れている」間に、民間投資の呼び水となるインフラ投資を倍増、それを企業収益の上昇と投資意欲の喚起につなげ、賃金の本格上昇を促す政策です。
岸田首相には、「新しい資本主義」などという言葉遊びではなく、上記政策の実行を望みます。