今後の建設需要(22):ユーザー目線の欠如

2021.12.16


全国建設業協会が、適正工期やダンピング対策の強化などの意見・要望書をまとめました。
この要望は、岸田内閣が掲げる「成長と分配」にも寄与するとしていますが、そこには「三方良し」で掲げる市民および顧客の視点が感じられません。
ユーザー側になる企業および個人の立場で読むと、業界の利益確保の要望にしか見えません。
 
また、日建連が「適正工期算定プログラム」をバージョンアップしました。
今回で6回目となるバージョンアップで、その努力は評価しますが、個々の建設会社が活用するかは疑問です。
 
これらの要望や策は、「競争をしない、させない」仕組みへの取り組みといえます。
たしかに低価格競争やダンピングは馬鹿げた競争です。
しかし、こうした取り組みが効果を上げるのは公共事業に限っています。
真の発注者である納税者には発注権限はなく、代行する国や地方行政機関の思惑だけで発注が決まるからです。
他方、市場の6割以上を占める民間分野においては、訴求効果はゼロと言っても過言ではありません。
大半の民間ユーザーは、価格以外の判断基準を持っていないからです。
こうしたユーザー目線への理解の薄さが建設産業の最大の欠陥と言ってもよいでしょう。
 
建設市場は、案件あたりの金額が高額になるため、人間の欲がもろにぶつかり合う市場です。
顧客の我欲と自社の我欲とのぶつかり合いを冷静に分析し、折り合う点を論理的に作っていく能力を地道に養う努力が欠かせないはずです。
それなのに、こうした努力が乏しくとも多数の企業が生きてこられた「奇跡」ともいえる産業なのです。
私自身、その最前線に身を置き続けながら、「おまえはユーザー側の目線を持っていたか」と問われると、まったく自信はありません。
現在は、ユーザー側に立った仕事もしていますし、自分自身がユーザーの場合もあります。
そこで、さまざまな利害のぶつかり合いを調整する難しさを、今になって痛感する毎日です。
 
ところで、長引くコロナ過によって、建設市場の様子に変化が現れ出していることに気づかれている読者の方は多いと思います。
在宅勤務の時間が増え、外出や旅行が抑制されたことで、人々の生活スタイルが変化してきています。
しかも、こうした生活スタイルが定着する傾向が強くなってきています。
たとえば、外へ出る機会が減ったことで、人と接触することが煩わしく感じている方もいるでしょう。
そうしたニーズを取り込もうと無人店舗に踏み込むコンビニなどが現れています。
諸外国と比べ「恥を感じる」意識が高い日本では、無人販売は効果がある方法といえます。
 
私自身、出張が激減したことで、出張することを“おっくう”に感じてきていることも事実です。
そのような中でも「お会いしたい」と思う人、「訪問したい」と思う会社はあります。
義理で会ったり訪問したりという“しがらみ”がお互いに薄れたことは、良いことだと思います。
営業の初期段階では、オンライン会議やネットを介したオンライン訪問は、お互いに効率的な良い方法です。
そうしたオンライン営業段階では、双方の情報をどう交錯させるかが重要なポイントになってきます。
一方的な売り込みは“うっとうしい”だけとなり、すぐに関係が切れてしまいます。
お客様のことを客観的に理解するためには、オンラインは便利で良い道具となります。
そこから、お互いにオンラインでは物足らなさを感じる付き合いへ発展させることが第二段階の営業となります。
そうなると、売り込む側が自分勝手に考える適正工期やダンピング抑制の訴えは、民間市場では逆効果でしかないことを、各社は自覚すべきです。