経済と政治(5)グローバリゼーションと反グローバリゼーション

2016.09.02

先の選挙で、野党は「アベノミクスは失敗」と安倍内閣の経済政策をターゲットに政権批判を繰り広げたが、空振りに終わった。
与党は「アベノミクスは国民に支持された」と胸を張っているが、しかし、国民はそれほどバカではない。
野党4党が束になっても「政権担当能力がない」ことを見抜き、とりあえず現政権に時間を与えたに過ぎない。
また、安倍内閣もバカではない。
マクロ安定化政策に頼る限界は十分に感じている。
ならば、そろそろマクロ安定化策の追求はやめて、本気で成長戦略に全力を注力するという政策に転換しても良さそうなものである。
しかし、自民党の大勢にはヘリコプター・マネー待望論が広がるなど、相変わらずの金融政策頼みで、成長戦略に対する機運がむしろ萎えているように感じるのはなぜか。
安倍首相の「成長戦略を力強く進める」という言葉だけが虚しく響く。
 
だが、この停滞の原因は安倍首相の責任というより、世界的に政治の潮流が大きく変わってきたことにあることを認識すべきである。
その潮流の変化とは、ここにきて、反グローバリゼーションのうねりが世界中で強まっていることである。
世界各国で、経済構造改革を進めることは自国を危険に陥れることだと思われ出しているのである。
英国民投票における欧州連合(EU)離脱選択はそのような国民意識の象徴なのである。
 
要するに、先進各国の経済成長率が低迷を続ける現在、潜在成長率の回復を狙って自由貿易や規制緩和を推進すると、その恩恵を享受できない人々が増え、全国的に不満が高まり、その不満を吸い上げる形で極右・極左勢力が台頭、政治的な不安定性が高まるとの懸念が増大しているのである。
米国と英国はグローバリゼーションの進展を国民が受け入れてきた国であるが、その米英ですら、反自由貿易、反移民の政治的なうねりが大きくなり、それが英国ではEU離脱選択になり、米国では、大統領選におけるトランプやサンダースのような反グローバリゼーションを掲げる候補者の躍進に繋がっているのである。
 
先進各国は、潜在成長率の低下が労働分配率の低下を招き、結果として実質賃金が上がらず、相対的に資産価格ばかりが上昇するという事態に陥り、特に低所得者層の怒りが募っているのである。
各国中央銀行は、インフレ率を高め経済成長率を回復させようとしているが、原油高や通貨の乱高下により失敗ばかりが続き、実質賃金のさらなる低下を招くという悪循環しか生んでいない。
庶民の目から見ると、中央銀行は経済格差の拡大を助長しているようにしか見えない事態である。
 
その中にあって、しかし、日本という国は不思議な国である。
日本も、各国と同様かそれ以上に経済成長率は低迷し、実質賃金の低迷も続いている。
マイナス金利導入も失敗した日銀に対しては厳しい目が向けられているが、政治の世界では、極右や極左勢力の台頭は全く見られず、安倍政権は先進国中で最も安定した政権基盤を確保している。
先の参院選の大勝などは、他国では考えられない現象なのである。
 
これは、ひとえに日本国民の大人しさ、忍耐強さに起因しているのであるが、かなりの与党政治家は以下のように誤解している。
「日本では自由貿易や規制緩和などグローバリゼーションが十分広がらなかったから、また移民政策を棚上げにしてきたから、極右・極左勢力も台頭していないのである」
「また、政府による補正予算などの追加財政処置によって財政資金が多様な階層に行きわたり、社会の不満は和らげられている。今後も追加財政を強化し、ヘリコプター・マネーなどの政策を強化すべきで、自由貿易や規制緩和、移民政策などの成長戦略は棚上げすべきだ」
 
これは、完全に間違えた認識である。
このような政策が続けばどうなるかは次号で解説するが、安倍首相がこのような考えに毒され、道を誤らないことを切に望む。