抑止力という名の軍事力(17)

2021.09.30


近年の自然災害の頻発によって、国民が自衛隊に期待する役割の第1位は「災害派遣」であり(79.2%)、「国の安全保証」は第2位の60.9%にとどまっています。
実際、自衛隊はさまざまな災害派遣に駆り出され、その献身ぶりは評価されています。
しかし、自衛隊の出動は、最後の最終手段であるべきです。
その自衛隊が早い段階から投入されている現状は健全とはいえません。
警察、消防、建設産業、そして医療機関で構成される災害援助組織を普段から整備、訓練しておくべきです。
 
もちろん、いつでも自衛隊を投入する準備は必要ですが、自衛隊は究極の危機である戦争に備える組織であることを忘れてはいけないわけです。
しかし、実際に自衛隊が出動する防衛事態は、政府も国民も、そして当の自衛隊すらも、まだ経験していない有事です。
尖閣危機が、ゆっくりではあるが確実に進行している現在、戦争が現実になることを想定した戦略構築、そして実戦訓練こそが、戦争を防ぐ抑止力なのです。
 
日本にとって、台湾有事は尖閣有事とセットで考えるべき課題といえます。
中国による「日本を核攻撃するぞ」という脅しが、その重要性を物語っています。
中国が恐れているのは、日米連携での介入です。
ゆえに、日本をこの連携から離脱させようと揺さぶりを掛けてきたわけです。
もちろん、この脅しには、なんの効果もなく、中国嫌いの日本国民を増やす逆効果しかありません。
となると、中国の次の手は尖閣への実力行使となるかもしれません。
日本が備えておくべきは、海警の領海侵犯だけでなく、中国海軍の軍艦あるいは軍用機による領海・領空侵犯に対する対処です。
この侵犯が起きれば、もはや実戦戦闘状態に入ったと認識すべきです。
 
日本は「戦争か平和か」などという観念論を排して、実戦となる前に、そのとき何が起きるかのシミュレーションを行い、有事の戦略を立て、訓練しておく必要があります。
このときの第一撃の出動は、米軍頼みではなく自衛隊単独で行う必要があります。
そのシミュレーションを基に、第二撃として米軍との共同戦闘を組み立てるべきです。
 
現在、米国バイデン政権は国防省内に中国タスクフォース・チームを設置し、対中戦略を練り直しているところです。
日本は、その作業に参加し、最悪事態への日米同盟戦略をすり合わせる必要があります。
来月発足する新政権には、コロナ禍対策および経済再建対策と並行して、防衛戦略の抜本的再構築を3本目の柱として打ち出すことを期待します。
自民党員でない以上、総裁選の選挙権はありませんが、その直後の衆院選には、当然選挙権があります。
誰が新総裁になろうと、上記の3本の政策に対する姿勢によって投票を考えようと思います。
野党にも、この視点での政策提言を期待したいのですが、報道を見ている限り、まったく期待が持てません。
 
戦争は自然災害やウィルス禍と異なり、自然に発生するものではなく、また自然に収まっていくものでもありません。
関係国の意図と行動が相互に絡み合い、対応次第で事態が収拾することもあれば拡大することもあります。
不安定な世界で日本の主権と国民を守るため、自衛隊にどのような任務を付与し、その結果としての犠牲をどこまで受け入れるのか、高度な政治判断と国としての覚悟が要求されるのです。
中国も北朝鮮も、憲法9条など、まるで念頭にはなく、日本の防衛体制と覚悟のみを見ているのです。