インフレ誘導政策は是か非か(1)

2016.11.16

日銀が量的緩和を進めても、マイナス金利を導入しても、一向にインフレに向かわない日本。
安倍首相は、今年、世界の著名な経済学者たちを日本に呼び意見を聞いたが、その後の経済政策に大きな変化は見られない。
一時、「ヘリコプターマネー」とか「永久債による国家債務の帳消し」、「現金流通の廃止」等が報道されたが、やがて消えてしまった。
マスコミは、こうした刺激的な言葉が出ると、すぐに囃(はや)し立てるが、日本国民はさっぱり反応しない。
“国民の冷静さ”というより、国民には“意味が分からない”ので反応しようもないのである。
 
それは、国民のレベルの低さではなく、マスコミのレベルの低さのせいである。
一連の「欧米のスター経済学者」らが競って安倍首相に提示した種々の日本経済再生案に対して、的確な解説なり論評を加えたマスコミがあったであろうか。
経済専門紙である日経新聞ですら、読んで納得できる記事はなかった。
 
私は、まず、彼ら「欧米のスター経済学者」たちの無責任さを指摘したい。
彼らは、自らの経験や理論が全く当てはまらない日本という国に興味を持ち、そこに過激な政策を持ち込んだらどうなるかの”実験“がしたくてたまらないのである。
その実験に失敗したって、欧米での彼らの信用には傷はつかないと思っている。
言い方は悪いが、彼らにとって日本という国は、新薬を実験投与する犬のようにしか思っていないのであろう。
動物実験でその動物が死んだって、医者が社会の批判を浴びることはない。
しかし、人体投与で失敗したら裁判沙汰になりかねない。
彼らの考える“人体”は欧米であり、日本を同じようには考えていない。
安倍首相が、どの策も取り入れないことを祈る。
 
では、「アベノミクスは限界で、インフレ誘導は無理」との説は正しいのか。
この答えの前に、まずは以下のデータを見てもらいたい。
日本のGDP成長率は、2009年に -5.53%と大幅に減速したが、翌年の2010年には4.71%と急反転した。
これには政治的な大転換が関係している。
思い出して欲しい。
2009年は、自民党政権が完全に行き詰った年である。
そして、その年の9月に民主党政権が誕生したのである。
2009年-2010年のGDP成長率の大転換は、まさに国民の気持ちの浮き沈みの結果なのである。
 
しかし、その後経済は減速し、2011年には再びマイナス成長率へと落ち込んだ。
東北大震災、原発事故と続く大打撃が主たる要因だが、民主党政権への国民の期待はずれが大きくなっていくことに合わせて日本経済は減速の度合いを深めていった。
 
その後、2012年には1.74%と持ち直したが、この年の前半は民主党政権の末期、後半は自民党政権が返り咲き、安倍政権の下での日銀黒田総裁の「異次元緩和」が実施された年である。
いわゆるアベノミクスの始まりである。
だが、アベノミクスという経済政策の効果というより、政権交代への期待感と“アベノミクス”という言葉の効果のほうが大きかったといえる。
その証拠に、このような効果は長続きせず、2013年には1.36%とメッキが剥がれ始め、昨年度2015年は0.54%、今年2016年の予想値は0.51%と完全に停滞してしまった。
 
こうして過去を検証してみると、成熟経済は金融政策では動かず、消費者の気持ちで動くことがよく分かる。
次号では、今後の経済の行方を予想し、それに対する「インフレ誘導政策」の是非を論じてみたい。