これまでの経済、これからの経済(9)

2020.05.18


前回、孫子の骨子は「人間性、合理性、中庸性」の3本にあると書きました。
さらに、この3本の柱の根底には「二律背反」と「万物流転」という宇宙の大原則があります。
二律背反とは「あちら立てればこちら立たず」という、相反する二面性がすべての物事、事象にあるという原則論です。
万物流転とは「この世に止まっているものはなく、すべては流れの中にある」という流動論です。
この2つを土台にして3本の柱を考えると、以下のようになります。
超簡単に説明します。
「人間性」とは、人間心理の“アヤ”です。
人の成功を羨み、見栄を張り、金銭欲や低俗な欲望に囚われる反面、困っている人を助けたり、小さな子どもをかわいいと思ったりする、矛盾する心がある。それが人間というものだ・・というようなことです。
芥川龍之介の「羅生門」や「蜘蛛の糸」、ドストエフスキーの「罪と罰」などは、こうした人間心理を見事に表現した名作です。
また、中国の韓非子やイタリアのマキャベリなどの思想家は、人間心理を、その底の底までえぐり出しています。
そうした人間心理の洞察は、ビジネス上の大きな要諦といえます。
 
次の「合理性」は、自然の摂理に従うことを意味し、「現実性」とも言います。
現実に起きたことは、どんな嫌なことでも否定せず受け入れること。
それは「水は高いところから低いところに流れていくもの」といった物理法則を受け入れることだと、私は教わりました。
この教えは「倒産必至」に追い込まれたときに大きな支えになりました。
 
最後の「中庸性」は、柔道の「自然体」あるいは剣道の「青眼の構え」と教わりました。
「攻撃も出来るし、防御も出来る」位置に立つことだと言われました。
つまり、結論を出して事に臨むのではなく、どんな事態にも対処できる位置に自分を置くということです。
孫子は、ものごとの解析に「易の二元論」を使っています。
二元論によって対象物の陰と陽を明確にし、その両面を均等に見よということです。
しかし、「易の占いによって結論を出す」ことを戒めています。
そうした結論の出し方に合理性を見い出せないからです。
 
私は無神論者ですが、神や仏に祈ることはあります。
その時は、何かを願うのではなく、「我に平常心を与え給え」と祈るのです。
つまり、常に中庸に自分を置くための自己暗示です。
 
さて、孫子は、この2つの大原則と3本の柱を基に、8つの律で実際の行動を規範しています。
この8つとは、盛衰律、変化律、因果律、効果律、勝敗律、順序律、均衡律、全体律です。
この解説は、また後日。