2024年からの展望(5):責任あるAIってなんぞや?
2024.12.03
文部科学省は、AIが人々の生活にもっと使われて便利になるよう、理化学研究所のセンターなどでAIの基本(きほん)となる数学やアルゴリズムの研究を進めています。
AIのような大きなテーマの研究は国家主導で進めるべきですが、国はカネを出すだけで口は出さない。さらに、その成果のすべては民間に開放するという姿勢が必要です。
それだけ腰の据わった、そして「見返りは国の経済の発展のみ」という政治を貫けるかが肝心です。
かつてあった「2番じゃダメなんですか?」の姿勢ではダメなんです。
さて、時間を40年と少々遡ります。
当時、コンピュータメーカーでSEだった私は、「第5世代コンピュータ開発」という国家プロジェクトの要員として、東京都三鷹市にあった電通研に送り込まれました。
当時の国産コンピュータメーカーから多くのハードおよびソフト技術者が集められた一大国家プロジェクトでした。
当時は、パソコンなどが誕生する前の世界で、「汎用型」と呼ばれる大型コンピュータの時代でした。
従って、ハードもソフトも大手企業しか参入できず、ベンチャーと呼べる企業は皆無でした。
ゆえに、集められた技術者のすべてが大手企業の社員でした。
しかし、当時の米国には、すでに幾つものITベンチャーが誕生していて、その中からビル・ゲイツやスティーブン・ジョブスたちが生まれていきました。
私は、機会に恵まれ米国で仕事をすることがあったので、そうした米国の新進気鋭(野望を抱いていた)天才といえる若手技術者と交流することもできました。
そうした経験も、第5世代開発のメンバーに呼ばれた要因かもしれません。
国家肝いりのこの斬新なプロジェクトは、10年ぐらいの年月を掛けましたが、何も作り出せず、自然消滅のような形で消えてしまいました。
私は数年で会社に戻され、新規開発の防衛システムの担当となったため、その後のことは分かりません。
ですが、このプロジェクトが壮大な無駄使いだったとは考えていません。
このプロジェクトの目的は、「人間の思考を模倣し、知識や経験に基づいて推論や判断を行う人工知能(つまりAI)を搭載するコンピュータの実現」でした。
具体的には、
(1)自然言語処理、(2)知識ベースのシステム、(3)並列処理
これらの技術を組み合わせた高度な情報処理能力によって人間との対話や人間の意思決定を支援するコンピュータ・システムの構築です。
ほぼ、現代のAI開発の目的と同じです。
しかし、技術的な課題は大きく、予算や人員の不足などで目標達成できず、何も生み出せませんでした。
それでも、このプロジェクトは後の多くのコンピュータ・システムの開発に大きな影響を与えたことは事実です。
私自身、その後の防衛システムの開発に際し、このプロジェクトで得た技術やノウハウを大いに利用しました。
また、当時の大手コンピュータメーカー各社の精鋭が集まったプロジェクトでしたから、日々のやり取りだけでもお互いに相当の知識やノウハウが得られたはずです。
その意味で、このプロジェクトの意義はあったといえます。
ただ、当時の先輩はもちろん、同年代の者も大半は退職していて、後輩たちへの伝承も怪しい状況です。
そのせいか、現代の大半の企業は「AIが人工知能」と呼ばれることの意味を理解していないように感じます。
もちろん、マスコミも同じです。
これまでのシステムはEvent-driven(イベントドリブン)という「操作する手順に従ってデータを処理する」タイプのシステムです。
その反対が、Data driven(データドリブン)という「収集したデータを解析して意思決定やプロセス(手順)の改善に利用する」というシステムです。
読者の皆様は、AIが後者の部類に入ることが分かると思います。
しかし、疑似的なシステムはありますが、真のData drivenといえるシステムは、オープンAIのようなものを除くと皆無といって良いでしょう。
そのオープンAIにしても、試作品の域を出ていないといえます。
ならば、この世界には大きな可能性があるということです。
次号に続けます。