これからの中小企業の経営(4)
2024.04.02
故武岡先生の戦場での話を続けます。
数人の小部隊で300名程度の敵とぶつかった時、最初の銃撃戦で2名の部下が倒れました。
その後、いったん膠着状態となりましたが、「ここで死ぬのか」と覚悟し、「どうせ死ぬなら」と、破れかぶれの突撃を考えたそうです。
しかし思い直し、最年長の上等兵の部下に「どうする?」と聞いた時の話です。
CMの竹野内豊くんの部下は、スマホでタクシー会社を呼びましたが、昭和20年にスマホはありません。
若干20歳の少尉だった先生に対し、父親世代の上等兵は、こう言ったそうです。
「こっちは少尉殿を含めてわずか、あっちは数百人ぐらいいそうです。立ち向かったところで全滅でしょう。
じゃあ『逃げるか』ですが、すぐに追い打ちを掛けられ、やっぱ全滅ですな~」
これを東北弁で悠長に喋った(もちろん小声で)そうです。
上等兵は、続けて「逃げて、後ろから撃たれ、背中に穴が空いた状態で死ぬのは、少々“みっともない”ですな~」と言う。
「じゃあ、突撃するか」と立ち上がろうとした先生の服を抑えて、一転してドスの効いた低い声で「静かに! 動かないことです。敵はこちらの様子までは分からないでしょう。我々は偵察部隊で少人数ですが、動かなければこちらの人数は分からないはずです」と言う。
なるほどと納得した先生は、部下たちに「動くな!」と指示し、敵が攻めてきたら迎え撃って死のうと決意したそうです。
ところが、一向に敵は攻めてこない。
そこで、先生はその上等兵と二人で這って進んだところ、丘の縁に出た。
その眼下に見えたのは、引き上げていく中国兵たちの姿でした。
つまり、中国軍は相対している日本軍がわずか数名とは分からず、危険を感じて引き上げたというわけです。
おそらく最初の銃撃戦で敵はそれなりの損害を出し、“それなり”の敵がいると判断したのだろうと先生は推測したそうです。
この話から得られる教訓は、「絶体絶命の事態に際しリーダーは何をすべきか」ということです。
一番“マズイ”のは、破れかぶれの行動を起こすことです。
リーダーがまず“すべきこと”は「内外の情報を徹底的に収集し、その情報を精査すること」です。
その時、経験豊富な部下の意見を聞くことは大事です(この上等兵のような部下です)。
そうした意見を参考に、「一番に重視すべきことは何か?」そして「二番は?」「三番は?」と順位付けることが指揮官(リーダー)の役目です。
もちろん、その全責任を負う覚悟があってこそのリーダーです。
それでも、前号で述べた「槍の穂先」にかかる“ハシゴ”が見つかる保証はありません。
しかし、その“すべきこと”の順番で行動を起こしていくことで“ハシゴ”が現れる確率は高くなるのです。
「そんなわけ無いよ」と言われるでしょうが、私はこう考えるのです。
「どっちみちダメかもしれないが、行動を起こさなければ100%ダメ。しかし、行動を起こせば、必ず周りの事態に変化が起き、そこに“ハシゴ”が現れる可能性があるのだ」と。
創業企業が10年生き延びられる確率は10%も無いと言われますが、生き延びた企業は、ほぼ例外なしに、こうした経験を経ています。
次回から、私が接触してきた数社の実例を紹介したいと思います。