中国経済は「末期状態」と判断すべきか?(その4)

2022.11.02

中国国家統計局が10月24日に発表した1~9月の不動産投資は前年比8.0%減でしたが、床面積ベースの不動産販売は前年比22.2%減と、売上の下落に比べて投資の減額は進んでいない様子が分かります。
公式発表でも不動産市場の落ち込みは隠しようもありませんが、実態はもっと危ない状況です。
不動産業界の上位100社が1~9月に販売したマンションの累計成約額を見ると、約4兆6700億元(約95兆3978億円)と前年同期比45.4%という大幅な落ち込みです。
 
中国の不動産業界は、地方政府が資金を出して開発・販売し、投資資金の回収を行う仕組みです。
販売が不振だと資金回収が出来ず、次の開発投資を行うカネの流れが止まるのは自由主義国と同じですが、地方政府は中央からの「経済発展を続けろ」の指令に逆らうことができず、不動産投資を減らすことができません。
結果、過剰建設が続き、既に何年も前から全人口以上の住宅が供給される状況に陥っています。
その戸数は30億戸に達するとも言われていますが、本当なら全人口14億人の倍以上の数字です。
しかも、少子高齢化が加速度的に進む中国では、事態は深刻になる一方です。
 
こうして売れない不動産の急増やローン返済拒否などの問題が広がる状況に、中国政府は一転して、不動産産業に対する規制を大幅に緩和し、不動産市場回復に向けた大号令を出しました。
しかし同時に、不動産価格の値崩れを防ぐため、日本では考えられないような「値下げ制限令」を出すよう地方政府に圧力を加えています。
その圧力を受けて、例えば、広東省中山市は、商品住宅価格を申告制にして、3ヵ月間はその価格を5%以上、下げてはならないとし、さらに実際の販売価格は、その申告価格の上下15%を超えてはならないとする通達を出しています。
また、福建省平潭市は、かつて不動産価格が炎上し「ホットランド」というありがたくない異名が付けられた行政区ですが、不動産不況がひどく、一平方メートルにつき2万元(約40万円)割引で在庫をさばいていたところ、今年6月にやはり値下げ制限令が出されて販売は止まってしまいました。
 
日本から見ると、まず、この値引き額に“びっくり”です。
40坪の家だと、実に5,280万円の値引きになる計算です。
「最初の価格はいくらなんだ?」と言いたくなりますね。
 
こうした事例は、いかに中国の不動産バブルが異常なまでに膨れ上がっているのかを物語っています。
中国のGDPの半分が不動産取引と言われていますから、こうした惨状を見ると、これまで発表された中国のGDP値そのものが信用できなくなります。
習近平総書記の三選の舞台となった共産党大会でGDP値の発表を延期した理由も“推して知るべし”です。
大会が終わった後に成長率3.9%と抑え気味の数字を発表しましたが、誰も信用しない数字です。
 
中国では、不動産の利益率は、銀行利息や付加価値税などを含めて17%は必要と言われています。
日本でも似たような数字ですが、この利益率で販売価格を15%値下げすれば、企業利益は完全に赤字になり、倒産へまっしぐらです。
それに対し、中国政府は不動産企業を倒産させずに不動産価格を安定させようと、強権的な規制で市場をコントロールしようとしているのです。
まさに共産主義の発想であり、中国が共産主義国なのだということを改めて認識させられます。
 
しかし、不動産に限らず、高騰したモノの価格は、当然に購買量が減り、やがて市場メカニズムにより適切な価格まで引き下げられるのが自然の法則です。
中国では、このメカニズムを「値下げ制限令」で政府が強制的に封じるのですから、これでは在庫は減りません。
このような「値下げするな」と「在庫減らせ」という矛盾した二つの政策を課せられた現場は、パニック状態です。
 
それでも、独裁国家では上からの命令は絶対です。
地方政府と不動産企業は「値下げ制限」と「脱在庫あまり」という矛盾した二つの政策を同時に達成しなければ、クビどころか、本当に自分の首が飛びかねないのです。
彼らは、「値下げ制限」に従いながら「あまった在庫」を売るために、不動産市場の需要をなんとか掘り起こそうと懸命なのです。
その結果、悲惨でもあり、滑稽でもある光景が全土で広がっています。
例えば、預金があるのに家を買わない市民を「悪意で家を購入しない人物」として圧力をかけたり、親の老後資金で若者に強引に不動産を買わせたりという、日本では考えられない滅茶苦茶な政策が横行する結果となっています。
もっと奇妙な政策が次々に起こっていますが、それは次号でお伝えしたいと思います。