水商売からビジネスを学ぶ(その3)
2024.11.01
前号は、従業員全員の首切りを宣言したところまででしたね。
数々の証拠を突き付け「辞めていただくか、警察に行くか」と脅した(?)私の態度に本気を感じたのか、
しばらくして、支配人は「こんな店、すぐに潰れるさ。こっちから辞めてやる」と凄み、他の従業員たちを引き連れ、店を出ていきました。
しかし、その少し後、ホステスの一人がそっと戻ってきて「これから、どうするの」と聞いてきました。
実は、全員に「辞めてもらう」と宣言する日、店を開ける前に、このホステスを呼び出し、全員クビにする話をした後、こう言ってあったのです。
「僕は、全員の行動をチェックしていて、不正の証拠を揃えていたんだ。でも、貴女はそうした不正をまったくしていない。どうか残って僕を助けて欲しい」
戻ってきたそのホステスは、容姿は中の下(失礼な表現だが、ご容赦を)でしたが、お客の人気者でした。
明るく気立ての良い性格がお客との会話を弾ませていて、美人のホステスより受けたのだと思います。
そっと戻ってきた彼女は、私に笑いかけながら、一冊の手書きの冊子を渡しました。
「?」とした私に、こう言いました。
「これ、バーテンの星野さんが、あなたに『渡してくれ』って言って渡したのよ」
その手書きの冊子をパラパラっとめくった私はびっくりして、改めて詳細に見ました。
そこには、種々のカクテルの作り方が絵とともに丁寧に書かれてあったのです。
そのバーテンも、支配人の友人が来ると“ただ酒”を出していましたが、さすがに気が引けていたのでしょう。
私は「ありがたい。これがあれば何とかカクテルを作れる。これで星野さんの不正はチャラだな」と心の中で感謝しました。
そして、彼女にこう言いました。
「明日の朝、店に来て、ママ(私の母親)と一緒に僕の計画を聞いてくれませんか」
彼女は真剣な表情で頷きました。
翌朝、母と彼女に私の計画を話しました。
母には「僕は大学の授業が終わってから店に来るので、母さんはそれまで店を切り盛りしていてくれないか。
で、最後は僕がその日の勘定をまとめて家に持ってかえるよ。母さんは翌朝、おつりのおカネを持って店を開けてくれないか」
母は「分かった。急いで来なくても大丈夫だよ。お前が来るまでお客様の相手はしているから」と明るく言ってくれました。
そして、彼女には「あなたは僕と一緒にカウンターの中に入って、お酒や“おつまみ”を出すのとカウンターのお客様の相手をお願いしてもらえますか」
彼女は「それはいいけど、客席で接待する女の子はどうするの?」と、当然の質問。
私は「たしかにね。でもお金が底を付き、家賃などの経費で目いっぱいなんで、新たな子は雇えないんです」と、正直に話した。
彼女は「それなら、私が中と外の両方やるよ」と、うれしい提案。
私は「ありがとう。でも、策はあるんだ」と、二人に話した。
これは“はったり”ではなかったが、その策を聞いた母も彼女も「え~、大丈夫?」とびっくり。
その策は次号のお楽しみとします。