インフレ誘導政策は是か非か(2):日本経済の現状分析
2016.12.16
日銀のインフレ誘導策の是非を問うコーナーですが、そのためには現実の景気の背景を分析する必要があります。
日本経済は、政府・日銀の懸命の策でようやくマイナスに落ち込むことに堪えている状態だと思います。
政府に批判的なマスコミや野党、経済評論家は、この状態を「アベノミクスの破綻」として政府を攻撃していますが、マイナスに落ちない限り「破綻」とは言えないと思います。
さりとて「成功」とは言えない状態ですから、「まだ判断出来ない」としか言いようがありません。
それより今回は、現在の景気の背景を分析してみたいと思います。
どんな国でも、発展途上段階では「輸出主導型」の経済で景気を引っ張る策を採る。
それが成熟段階になると、「内需主導型」の経済で景気を引っ張るように切り替えていく。
日本経済は30年前にその段階に入ってきた。
しかし、それが行き過ぎたために「バブル経済」になってしまい、バブルが弾けて、長い低迷期に入ってしまった。
第二次安倍政権の経済政策でなんとかプラスに経済を立て直したが、足元があやしくなってきた。
日銀の量的緩和策は、現代経済学の本流ともいえる「合理的期待仮説」をベースにした策である。
専門家の言葉を借りれば以下のような説明になる。
「国民は、利用可能な情報に基づいてインフレ期待を形成し、おおむね合理的に振る舞う。だから、中央銀行がインフレになるような政策を実施すれば、それに応じて市場もインフレになる」
つまり、日銀・黒田総裁のインフレ誘導策は、経済学的には正しい策だといえるのである。
実際、欧米各国では、同様の量的緩和策の実施によって、市場はおおよそ期待した通りに動いてきた。
しかし、日本では、日銀がいくら量的緩和を進めてもなかなかインフレにならない。
これは世界の経済学者の中で「大きな謎」として受け止められている。
日本は普遍的な経済理論が適用できない唯一の市場なのか、それとも、理論は合っているが、日本人は非合理的な行動をとる人種なのか、で論争が起きている。
安倍首相の求めに応じ、有名経済学者たちが大挙して日本を訪れたのは、その興味があったのと、「もしかしたら、日本で“無責任な”実験ができるかもしれない」という誘惑にかられて来日したのである。
ところが、日本に来た彼ら経済学者たちは、みな驚いた。
日本の経済が豊かで、人々がゆったりと過ごしている姿にである。
海外で報道されている日本経済は、「もはや破綻寸前」という報道ばかりだったからである。
原発事故の時、「日本全体が汚染され、もう日本には人が住めない」と報道されたのと同じである。
そんな彼らの提言に耳を傾けなかった安倍首相は賢明であったと言うべきであろう。
日本経済停滞の根本要因は、個人消費の伸び悩みに尽きる。
その伸び悩みの第一の要因は、団塊世代の高齢化である。
高度消費経済の中を全力で生き抜いてきたこの世代は、人数の多さもさることながら、リタイヤ後もその消費意識は旺盛で、経済の牽引役であった。
しかし、今や全員が「前期高齢者」となり行動範囲が狭くなり、その先の老後の心配も深刻になってきた。
年金法改正により年金に頼る生活にも黄色信号が灯り、さりとて、子供である団塊ジュニア世代は、もっと大変な経済状態下にあり、頼れない。
しかも、今後の消費を牽引すべき若い世代は、従来型の消費に背を向け、「持たない、買わない、シェアする」といった生活スタイルを「カッコよい」とする低消費年代である。
リユース品(ようするに中古品)を、ネットでやり取りする個人間取引では経済は作れない。
新品の家具や衣料品、新車の販売が軒並み不振という事態がそれを物語っている。
インフレなど起きようがない状態なのである。
このように分析していくと、安倍政権の「官制賃上げ」がいかに的を外しているかが分かるであろう。
もっと有効な手はないのか。
次号では、それを論じてみたい。