小さな会社の大きな手(8):戦略投資

2015.10.31

前回、投資には、金融投資と戦略投資があると解説しました。
さらに、「カネにカネを生ませる」のが「金融投資」で、「モノやヒトにカネを生ませる」のが「戦略投資」と、私の識別の話をしました。
もっと言えば、「自分は努力せず」、「他人の努力に期待する」のが金融投資だとも話しました。
では、「戦略投資」とは、「自分が努力し、他人の努力には期待しない」ということなのでしょうか。

突き詰めればそう言えますが、それほど単純な話ではありません。
だから、金融投資に乗る経営者は多いですが、戦略投資となると二の足を踏まれる経営者がほとんどなのです。
危険が伴うということもありますが、知識不足であり、コントロール能力不足なのです。
「金融投資」にもリスクがあり、知識も必要です。
しかし、稼ぐ努力は他人がすることなので、必要な知識も単純なのです。

それに対し、戦略投資は、多様で多重な知識が必要です。
まず、自社の経営資源、製品内容、陣容や人材、関係会社や取引先の経営内容、技術、人材など、知るべきことは山のようにあります。
大抵の経営者は、まず、この段階で白旗を上げてしまいます。
「わからん」というわけです。

さらに、新たな投資はリスクだらけです。
経営者が大きな投資を「やろう」と思っても、社内は反対の嵐になります。
まず、財務部長などのおカネの管理者が猛反対します。
「社長、何をバカなことを!!」と、青筋を立てて反対します。
無理もありません。
企業にとって「おカネ」は、存亡の要です。
そのおカネを危険にさらすことなど、財務の責任者が出来るはずはないのです。
さらに、営業にとっては、また新たな販売戦略が必要になります。
「そんなの売れるかよ!」と反対するのが当然です。
技術部門だって管理部門だって、事情は大なり小なり同じです。
社長とその戦略投資の実行部隊だけがやる気という孤立無援状態に置かれます。

この図式を突破できるとしたら社長しかいません。
池井戸潤が直木賞を受賞した「下町ロケット」は架空の会社の小説ですが、このあたりの描写をなかなかよく書いています。
もっとも、この会社の解決に至る道は、現実には、まったく参考になりません。
現実は、もっと地味で堅実な道を歩まなければなりません。

ここで大事なキーワードは、もちろん「戦略」です。
その投資が成功につながる道を描き、その道を着実に歩いていくストーリーを描き、その道で生じるであろう様々なリスクを描き、そして、その一つ一つをクリアする方法を描く。
それが「戦略」であり、戦略の実行方法が「戦術」です。
そうした戦略・戦術が細大漏らさず描かれている計画書を作成することが「戦略投資」の第一歩です。

どうですか、もう、ここで気持ちが萎(な)えてしまうでしょう。
萎えてしまったからと言って悪いわけではありません。
達成への戦略を描けもしない夢は、寝床の中か酒の席で見るだけにしておくべきです。

と、ここまでコケにされて「頭に来た!」経営者の方は、次回から数回に渡ってお送りする予定の「戦略投資」のお話にご期待ください。