日本における設計業務の闇(3)
2014.04.30
これまで日本の設計業界の暗い話をしてきたが、今回も暗くなりそうな話を。
一般マスコミにも名前が出る有名建築家や大手設計事務所は別として、設計事務所の多くは、企業としての形すら整っていないところが多い。
私も、20年前は、その最下流の泥沼の中で必死にもがいていた。
当時、世間が設計に対して認めていた価値は、時給に換算すると最低賃金にも届かない悲惨さであった。
その状況は、今日でも「改善された」とは、とても言えない状況である。
勿論、少し見方を変えれば、別の手段で稼ぐ方法はあった。
奇妙な話だが、施主(発注者)は低い設計報酬しか認めないのに、設計士を施工者の上に位置させている。
つまり、施工者に対する権限だけは結構あるのである。
それを逆手に取り、施工者に「タダ」で設計させ、そのかわり、施工落札に便宜を図るという図式が横行してきた。
一言で言えば、設計士兼施工ブローカーである。
施工者から見返りの現金供与を受ける設計者も多数いた。
こうなると、ブローカーというより“口聞き(くちきき)屋”である。
私の事務所も、受注した施工会社から現金を送られたことが何度かある。
施工会社に設計を依頼せず、全部自社で設計していたからである。
勿論、その現金は受け取らなかったが、本音を言えば「欲しかった」。
このように、設計業界は「食べるためには“仕方ない”」という空気で満ちていたし、大手からして、率先してその道を進んでいた。
私は、欧米のように、設計士が力を認められ、尊敬すら勝ち得る社会を望んできたが、独立から5~6年で「日本では実現不可能」と思うようになってきた。
一方、大手ゼネコンは、「タダ」で設計してきたことで、卓越した設計能力を蓄えてきた。
ところが、不況が進み「タダ」の設計費を施工金額の中で吸収することに限界が見えてきた。
そこで、ゼネコンは必然的に「設計・施工一貫受注」へ傾倒し始めた。
今の大手ゼネコンは、6~7割が設計・施工での受注ということである。
まさに、欧米とは正反対の方向に来ている。
このままでは、日本の設計業務は、デザイン性を強く打ち出した案件を別にすれば、施工の添え物と化していくであろう。
その中にあって、私は、設計業務の価値向上を諦めたわけではない。
“蟷螂の斧”と言われようと、私に出来る努力は継続していこうと考えている。
ただし、欧米流の「設計単独での価値」の実現は不可能と思っている。
最上流に自分たちのステージを作り、その中で設計の価値を作るという発想である。
そのステージとは、設計、施工だけでなく、営業やその他の価値の全てをオールインワンにして実現する市場である。
このステージは、すでに受注実績も作っているので、現実となってきている。