中国の思惑通りにはいかない(その12)

2021.04.19


注目の米中2+2会談は、両国の距離を浮き彫りにした結果となりました。
中国は米国による経済制裁の緩和をこの会談に賭けていたはずですが、米国に真正面から人権問題を持ち出され、冒頭からその目論見は崩れました。
経済戦争の側面から言えば中国の立場のほうが苦しいので、外交で切り抜ける道を狙っていたはずです。
しかし、外交トップの楊潔篪(ヤン・チエチー)は、中国国内向け(というより、習近平主席への忠誠の証のような)強硬な演説で応戦しました。
 
近年、中国経済は驚異的な拡大を続けてきました。
経済評論家の意見は、拡大はまだ続くとする意見と、停滞から下降局面に入るという意見に二分されています。
世界がこれまで通り、中国に資本を投入し中国での生産を拡大すれば成長は続きます。
しかし、中国への資本投下が危険になると判断して投資や生産の抑制が起きれば、成長は止まり、資本が引き始めれば下降局面に入ります。
経済は、そうした単純な図式で動くものです。
 
中国自身の一番の問題は、経済成長を維持することに関して、習近平主席と李克強首相の考えがまったく噛み合っていないことです。
前号で、李克強首相が「双循環」にはまったく言及していないと書きましたが、むしろ習近平主席が李克強首相に関与させないようにしているように思います。
昨年8月に経済に関する専門家会議が開催されましたが、この会議に李克強首相の姿はありませんでした。
この会議は、3月の全人代で発表された第14次五か年計画の策定という重要な経済会議でした。
当時、習近平主席は、意図して李克強首相を外したという憶測がなされていましたが、その後、李首相外しが露骨になっている印象が強くなっています。
 
そもそも、李克強首相は民営経済(つまり中小零細企業)重視で改革開放推進派ですが、習近平主席は国有企業(つまり大企業)重視で計画経済(共産主義路線)回帰派という正反対の考えです。
習主席は、4桁までの数値をすべて暗記しているといわれる李首相が煙たくて仕方ないようです。
そこにつけ込んだ腹心の劉鶴(リウ・ホー)副首相などが「双循環」という「耳触りのよい」政策を主席に吹き込んだのです。
 
しかし、経済の活性化は、「双循環」というような言葉の遊びではなく、市場開放、公平な法治の徹底、そして民営企業の活力支援に尽きます。
2月に、李首相に近い楼継偉・前財政部長(財務相)が、経済専門誌『財政研究』に寄せた文章が話題になりました。
相当に詳細な数字データを挙げて、以下の如く中国経済の未来に警告を発しています。
1.2009年から2020年まで積極財政を11年も続けたため、政府の債務問題が未来の財政の安定と経済の安全を損なう因子となっていく。
2.債務規模の急激な拡大により、債務返済の一般予算支出に占める割合が2020年はおおよそ15%に上がり、支出部門で2番目となった。
3.地方債務は、第14次5ヵ年計画により大幅に膨れ上がり、終了年の2025年には、およそ4分の1の省級の財政の50%以上の収入が債務の返済に使われることになり、金融リスクが現実問題となる。
 
この衝撃的な文章は、李克強首相が書かせたとも言われています。
この前財政部長は、李首相と二人三脚で経済改革に取り組んできましたが、2016年11月に、習近平総書記によって電撃的に解任されました。
このような習近平独裁政権が続き、それに対し日米などの自由主義陣営が団結して対決する図式が続けば、中国の経済凋落は起きると考えます。