これからの近未来経済(10):山なり多重回帰曲線型経営(その1)

2021.09.15


前号で予告した「山なり多重回帰曲線型経営」ですが、今回と次回は、その前提となる話をさせてもらいます。
 
弊社は、創業から31年目の中ほどに来ています。
それまでサラリーマンだった私は、当然ゼロからの出発でした。
起業する数ヶ月前、作成した事業計画書を、ある会計事務所の所長に見てもらいました。
計画書をざっと一瞥した所長は、私にこう言いました。
「1年ももたずに潰れるな」
そして、こう付け加えました。
「売上も経費もこの倍が出発点だよ。サラリーマン意識が抜けていない君には無理だと思うがな」
 
さすがにムッとした私は、こう反論しました。
「でも、株の30%を持たせてくれという大手企業もあるのです」
これは“はったり”ではなく、某大手企業の専務から直接申し出があった話です。
それを聞いた所長は、こう言いました。
「君は、企業経営の基本がまったく分かっていないな。30%の資本を持つということは、役員を送り込めるし、君の経営方針に異議申し立てができるということだ。君は、いったい誰の会社を作りたいのか、その大手企業の子会社か、君自身の会社か?」
 
「もちろん、私の会社です。では、どの程度の割合の持ち株だったら、その会社の影響力を排することができるのですか?」
そう反論した私に、所長は冷たく突き放しました。
「そんなことは自分で決めろ。自分で決められないのだったら、会社つくりなんて“遊び”は止めるんだな」
私は完全に打ちのめされましたが、所長の言われたことは至極もっともで、それ以上の反論はできませんでした。
 
しかし、一度決意した創業を止めるという気持ちは微塵も起きませんでした。
「よし、所長に『やってみろ』と言わせる計画を一から作り直そう」と、逆に闘志が湧きました。
 
まず、私は出資を約束してくれた大手企業の役員会に臨み、私の考えを述べました。
「御社からの出資比率は10%で考えさせてください」
その瞬間、役員室の空気は一変し、居並ぶ役員たちの顔には不快感が溢れていました。
「生意気な小僧め、たった10%だと。バカにしてんのか」
さすがに声には出しませんが、私の耳には実際に聞こえたように感じました。
専務はさすがに冷静で、一瞬表情を変えただけで、こう言われました。
「なるほど、それがあなたの最終回答と受け取ってよいですか」
私は「はい」とだけ答えました。
 
実際に10%の100万円がすぐに振り込まれましたが、後で総務部長から、こう言われました。
「専務からは、出資の300万円の他に、当座の運転資金として1億円を用意しろと言われていたんだがね。でも、10%の出資では無理だね」
それを聞いても、私には後悔の気持ちはまったく起きませんでした。
会計事務所の所長の言葉は、そのくらい重かったのです。
 
事業計画書も、強気の内容に一から作り直しました。
サラリーマン意識のままの創業であったなら、弊社は早期に無くなっていたと本気で思います。
現在は他界された所長さんには感謝しかありません。
次回は、もうひとつの前提となる話をさせていただきます。