企業における社長の力(9)

2019.04.17

それは、まさに山の稜線からの転落でした。
いきなり売上が半減し、とんでもない赤字になり、翌年度も赤字は止まりませんでした。
銀行は手のひらを返し、融資どころか資金引き上げを通告してきました。
さすがに打つ手もなくなり、倒産を覚悟しました。
深夜、一人で会社に残り、考え続けました。
しかし、倒産以外の道は見つかりませんでした。
でも、「体を動かそう」と思い、会社の中を歩き回っているうちに、考えがまとまってきました。
 
「どう考えても倒産は免れない。だが、どんな事態でも最悪の策と最善の策がある。ならば、倒産にも良い倒産と悪い倒産があるはずだ。どうせ倒産するなら『良い倒産』をしてやろう」という考えが浮かんできたのです。
 
不思議と気持ちは落ち着いていました。
そして考え続けました。
「最悪の倒産とはなんだろう? それは自殺することだ。死を選択する経営者は多いが、残された者に計り知れない心の傷を与える最も悪い倒産だ」
「では、最善の倒産とはなんだろう。迷惑を掛ける相手を冷静に判断・選別し、倒産の影響を最小に抑えることではないか」
そう考えをまとめました。
 
まず、迷惑を与える相手を考え、優先順位を付けました。
これはすぐに決められました。
第一が「お客様」、そして第二が「従業員」です。
その二つだけを救う方策を考えました。
そして、こうした事態を誰に最初に話すべきかを考えました。
これも、すぐに決めました。
それは、一番取引きの多い販社でした。
 
そこまで考えをまとめたら急に眠くなり、そのまま朝まで寝てしまいました。
そこが自分の図太さかもしれませんが、ぐっすり寝ただけではありません。
販社に行く前に、新規の営業先に寄って、一生懸命売り込みの話をしたのです。
本気で営業したのですから、少々呆れる話です。
 
それから販社に向かい、担当の営業部長さんに倒産する話をしました。
さすがに部長さんはびっくりして、「自分では判断できないので、少し待ってください」と言い、中座されました。
やがて、営業トップの常務さんを伴って現れました。
 
社員数5千人以上の会社でしたから、常務さんとは初対面でした。
私は、持参した決算書や経営資料を見せ、資金繰りが詰まり、倒産するしか道はなくなったと言い、
次のような提案をしました。
「うちのお客様をすべて引き取っていただけませんか。また、使える社員がいたら雇っていただけませんか。見返りに、弊社のソフト商品の版権のすべてをお渡しします」
こうした提案でした。
 
さて、常務は何と言ったか。それは次号でライブ風にお送りします。