中国の思惑通りにはいかない(その1)

2020.06.16


感染発生源でありながら、いち早くコロナウィルス禍から抜け出した感のある中国が、この事態を利用すべく様々な動きを見せています。
政治および軍事の問題は、次の5月15日号に譲り、今号は経済的な側面のみを解説します。
たしかに、近年の中国経済の発達は驚異的なレベルであり、あっという間に日本は抜かれ、今やGDPの差は2倍以上となっています。
しかし、そこには一つのからくりがあることを、我々は見落としてはならないのです。
中国は、経済発展の初期段階では、安い労働力を武器に軽工業で地歩を固めてきました。
その後、先進国からの技術移転(技術盗用?)で、鉄鋼などの重工業でも生産能力を高めてきました。
たしかに、鉄鋼生産量は世界一となりました。
ちなみに、2位はインドで、3位が日本です。
しかし、高張力鋼やカーボンファイバーなどの高品質分野の質は、まだ日本に及びません。
自動車でも、生産台数こそ、うなぎのぼりですが、質においては欧州や日本に遠く及びません。
つまり、数量頼みの工業で、質の面ではまだまだの段階なのです。
こうしたことは共産主義の弊害ともいえます。
万民平等を建前とする共産主義では、量が重視され、質は二の次となります。
製造業での質の停滞は、そのことを物語っています。
それが分かった中国政府は、経済成長の方向を変えました。
新たなターゲットとしたのは、IT分野です。
成熟した世界である製造業で質を上げるには、長年の技術の蓄積と気の遠くなるような期間の基礎研究が必要です。
こうした努力は、近代化の歴史の浅い中国がもっとも苦手とすることです。
近代中国の技術は、ほぼ全てが欧米や日本から学んだ、あるいは盗んだものです。
それに対して、先進国の目は格段に厳しくなっていて、この先は行き止まりです。
しかし、ITの世界は新興の世界であり、中国得意の人海戦術が幅を効かせる分野でもあります。
また、技術の盗用が簡単な世界であり、国民の情報統制にも効果が絶大と、一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなると踏んで、中国政府は戦略を立てました。
大量の若者を米国の大学などに留学させ、IT技術を学ばせ、技術移転を図ったのです。
その効果で、中国の経済規模は天文学的な数字に跳ね上がってきました。
今回のコロナショックも、独裁政治の強みを生かした中国は、いち早く抜け出したようにみえます。
しかし、欧米の中国に対する見方は一変してきています。
それが、これからの経済にどう影響してくるか。
次回は、そのことを推察してみたいと思います。