商品開発のおもしろさ(13)
2021.07.16
水商売の話が長くなってしまいましたが、この経験が今の自分を支えているという思いがあります。
もう1回だけお付き合いください。
さて、店を守るためヤクザと立ち回り(?)を演じましたが、その当人が夕方、店を開けたばかりの時間に来たのです。
さすがに私は身構えました。
そんな私を見て、彼はこう言ったのです。
「仕返しに来たわけじゃないぜ、この店に“客としてなら”来ていいか?」
私は、彼の真意を図りかね、しばし無言でした。
その沈黙の後、彼の顔を見ながらこう言いました。
「他のお客様に迷惑になることをせず、静かにお酒を飲むだけならば、お客として歓迎します」
その言葉に、彼は、心なしか顔を緩めて「ありがと、そのうち寄らせてもらうよ」と言い、帰っていきました。
その後、彼は、時折、酒を飲みに来るようになりました。
私は警戒していましたが、いつも、二、三杯の酒を飲んで帰るだけでした。
手下と思える者を連れてくることもありましたが、彼らの声が大きくなると、それを制するなど、驚くほど大人しいので、少々意外に思っていました。
ある日、彼はカウンターに来て、カクテルを注文しました。
カクテルを作る私の手元を見ながら、こんなことを言いました。
「あんた、大学に通いながら、この店をやっているんだって」
それが、あの時以来の彼との会話でした。
私は「ええ」としか言いませんでしたが、彼は独り言のように続けました。
「学っていうのは大切だよな。“うち”の若いモンは、まともに学校出てないヤツばっかだからな。
あんなヤツラでも行ける学校があったら、もう少しまともになれたかもな。」
それから、少しずつ、彼とはカウンター越しに話すようになり、彼の手下とも会話するようになってきました。
そんな彼らの話は、実は、とても興味深く面白かったのです。
自分の知らない世界の話は、善悪抜きに面白いですね。
テキヤ商売や博徒商売の内幕話、騙しやサギの手口など、商売のヒントになる話が盛りだくさんでした。
ちょっと、ここには書けない話もたくさん聞きました。
また、彼らとの付き合い(?)の中で、重要な商売のヒントを得ました。
それは、「相手が誰であれ、同じ目線で見て、同格の人格として相対する」ことの大切さです。
簡単に言うと、彼らを決して恐れず、しかし同格の人間として見る姿勢を“ぶらさない”ことです。
一般の人は、これと真反対の態度を取ります。
彼らを恐れながら、ウジ虫のごとく忌み嫌い、蔑んでいます。
その反面、有力者や金持ちには、ひれ伏し、ごまを擦ります。
もっとも、誰に対しても同格の姿勢を貫くことは、とても難しいのですが・・
ヤクザの彼ですが、ある時期、1ヶ月以上も姿を見せない時がありました。
久しぶりにカウンターに来た彼に「久しぶりですね。忙しかったのですか」と声を掛けながら、
ふと胸元を見ると、シャツの下に分厚く包帯を巻いているのが分かりました。
「まあ、いろいろな・・」としか答えなかった彼ですが、手下の話から真相が分かりました。
他の店で飲んでいる時、敵対するヤクザの鉄砲玉(監獄行きを覚悟で相手の幹部を闇討ちする者)に後ろから日本刀で切られたとのこと。
その話を聞いた時、「オレは、とんでもないヤツを相手にしていたんだ」と、冷や汗が出ました。
やはり、ヤクザは怖いですね。