中国の思惑通りにはいかない(その10)
2021.02.15
中国では、今年(2021年)から第14次5カ年計画が始まります。
その中で「双循環」なる耳慣れない言葉が出てきました。
この言葉は何も意味しているのでしょうか。
経済政策のトップを務める劉鶴(リウ・ホー)副首相は、以下のように説明しています。
「国内の大循環を主体とし、国内と国際の2つのサイクルが相互に促し合う新たな仕組みである」
つまり、国内および国際の「2つのサイクル」を組合せた新たな発展形態を作るとの主張です。
しかし本音は、米国との経済戦争で苦しくなっている海外市場への依存度を引き下げ、内需主導型の経済を確立しようということです。
こうした政策を先取りする形で、中国の主要都市では飲食店の開店ラッシュが続いています。
米国や日本で仕事をしている中国人たちの間で、中国に帰ろうという機運が高まっているのです。
日本や欧米諸国の感染拡大を目の当たりにして、留学生の親たちが留学させている子女らを中国に呼び戻す動きも加速しています。
トランプ前政権が仕掛けた「世界経済から中国を切り離す」政策は確実に効果を上げ、中国は大きな打撃を被っています。
中国寄りだった欧州の中国離れも、結果論ですが、トランプ政権の成果といえます。
そして、バイデン新政権がこの成果を引き継ぐのは確実ということです。
近年の中国経済の驚異的な発展は、西側諸国の技術を合法、非合法を問わず、根こそぎ刈り取ってきた成果です。
莫大な投資費用を必要とする先端技術をタダ同然で手に入れてきたのですから、安値攻勢でも儲かるのは当然です。
昔話ですが、建設会社時代、私が中国へのODA事業で工場建設を担当した時、施工技術を細かいところまで教えることを執拗に要求されました。
鉄筋の結束工法や型枠の型取り、果ては空調設備のダクトのハゼ折(一枚板を折り曲げて箱状に加工する技術)の詳細な工法まで教えろと言われたのには閉口しました。
適当に受け流していると、日常生活も監視され、拒否を続ければ日本へ帰国できないのではないかとの恐怖を感じたこともありました。
おそらく同様の経験をした技術者は大勢いると思います。
このことは、中国人が悪いというより、技術開発の価値を認めない中国という国の未成熟さの現れです。
(日本も大差ないと言えますが・・)
欧米諸国が、そうした中国の違法性に目をつむってきたのは、経済が豊かになれば、中国も資本主義のこうしたルールを理解して民主化すると思ってきたからです。
欧米が、その幻想を捨て態度を変えたのは共産党政権の独裁姿勢による自業自得ですが、トランプ前大統領の実行力でもあります。
トランプ氏の人格はともかく、成果は成果として認めるべきと考えます。
偽善性がばれた中国政府は、欧米からの「技術の“兵糧攻め”」に遭っているわけです。
今になって「独自のイノベーションの強化で、過度な海外市場への依存度を避ける」として「双循環」という経済政策を打ち出したのは、ここに活路を見出すしかないという、苦肉の策なのです。
しかも、米国は、単独で中国に攻勢を掛けるだけでなく、機密情報の共有組織である「ファイブ・アイズ」(米・英・豪・新・加)やG7、T-12(民主主義の先進技術国家の集まり)、D-10(民主主義10カ国の集まり)、クアッド(日・米・豪・印による戦略対話)などの中国包囲網を十重二十重(とえはたえ)に掛けてきています。
こうした合従連衡(がっしょうれんこう)政策は、バイデン新政権も、そのまま継続するものと思われます。
この包囲網の効果で、中国は内需に活路を見出すしかなくなっているのです。
知り合いの中国人は「中国には14億人の市場がある。欧米の包囲網など怖くない」と言っていますが、
劉鶴副首相が「双循環」について、「自給自足を意味するものではなく、内需完結型経済を意味するものでもない」と述べているように、苦境は明らかです。
中国の経済関係の首脳部は、共産党独裁の下で資本主義を発展させるという絶対的矛盾は十分に理解しています。
しかし、皇帝として君臨する習近平主席が健在のままでは、西側との経済戦争は激化する一方でしょう。