アベノミクスは実感に乏しい? (その1:賃金のメカニズム)

2013.08.29

指標をみる限り、日本経済は着実に回復してきています。
だが、「実感が乏しい」と、あちこちで回復を疑問視する声が聞こえてきます。
この「実感の乏しさ」とは、いったい何なのでしょうか。

まず言えることは、「賃金が増えないと思う人」の割合が多いことです。
たしかに、それでは「実感が乏しい」ですね。
しかし、個人消費は伸びていることを経済指標は示しています。
賃金が増えなくても個人消費は伸びるものなのでしょうか。
経済原理から言えば、それはあり得ません。
個人消費が伸びているのであれば、賃金も上昇しているはずなのです。
では、なぜ「実感が乏しい」となるのでしょうか。
そのメカニズムを少々解説してみます。

賃金は人件費ですが、人件費は給与だけではありません。法定福利費や福利厚生費も含まれます。
ここに第一のからくりがあります。
年金財政の圧迫などにより、社会保険料は毎年上がり続けています。
この上昇分は、企業と社員が折半して負担しています。
例えば、賃金が1000円上がったとします。
社会保険料の合計料率が12%とすると、社員の天引き額は130円×0.5(折半なので)=65円増えます。
一方、企業の法定福利費も65円上がります。
その上、料率が15%に上がったとすると、給料天引きは75円に増え、法定福利費も75円増えます。
社員の手取り賃金上昇は1000-75=925円となり、企業の人件費上昇は1000+75=1075円となります。

さらに、賃金上昇により所得税も累進で上がます。
仮に30%とすると、925×30%≒277円が税金にもっていかれます。
つまり、1000円の賃上げが、925-277=648円となってしまうのです。
企業の人件費上昇1075円に対し、社員の手取り上昇は648円にとどまります。
ずいぶん減ってしまいますね。
このギャップが「実感が乏しい」一因となっています。

しかし、年金を受け取る側(つまり、60才以降の人たち)は、そうは思っていないはずです。
この層は、保険料率上昇の恩恵を一身に受けています。
先の計算でいうと、料率アップ分の75円×2=150円は、そっくり受け取るほうの収入増になります。
これが、消費を押し上げる要因の一つになるわけです。

また、様々な減税の効果は、高額所得層でないと感じないでしょう。
でも、その分だけ個人消費が伸びているのも事実です。
高級車ベンツの最高級Sクラスが8年ぶりのフルモデルチェンジをしました。
最高価格2340万円の高級車は、最初の1ヵ月で2000台超の販売が見込まれています。

このように、普通のサラリーマンの実感が乏しくとも、消費は伸びているのです。

次に、労働分配率の問題があります。
労働分配率は、企業が生み出した付加価値額に占める人件費の割合です。
計算式は、 〈労働分配率=人件費÷付加価値額×100〉になります。
この問題は、次回解説することとします。