中国の思惑通りにはいかない(その2)
2020.06.16
独裁国家である中国には、政府に歯止めを掛ける機構がありません。
ゆえに、政府は好き勝手に何でもできてしまいます。
その効果で、ここまでは中国のほうがうまく対処しているように見えています。
ただし、その好き勝手が通用するのは国内に対してだけです。
そのツケは、すでに対外資金力の面に出てきています。
コロナウイルス対策以前から、中国では大量の資金流出が続いていました。
それは、外貨準備高の減少を見れば明らかです。
ピークの2015年6月に約4兆ドルあった外貨準備高ですが、2020年3月時点では3.3兆ドルまで減少しています。
さらに、コロナウイルス対策が続く今年度末には3兆ドルを切る事態が予想されます。
外貨準備高の減少に対して、中国人民銀行は「米ドルの評価が下がったからだ」と苦しい言い訳をしていますが、「あんたら、素人かよ」と、少々汚い言葉をつぶやきたくなります。
円ドル相場にはほとんど変化がないことから、この嘘はすぐに見抜けます。
人民元は、米ドルに対して下がり続けているのです。
ここで、人民元という通貨の特殊性を見る必要があります。
人民元は、一応、国際通貨としての体面から変動相場となっていますが、当局がいつでも介入することで、一定のレンジに固定されています。
つまり、実質的には固定相場制なのです。
G7各国が、そうした特殊性を許容してきたのは、ひとえに中国経済からの恩恵が大きかったからです。
しかし、特殊な中国経済が世界の経済を歪ませている要因の一つであることは確かです。
中国当局が為替レートの維持を優先した結果、中国の外貨は実質的に大きく流出しています。
それまで模様眺めだったEU各国の中国離れが顕著になってきたのは、こうしたことが主要な要因です。
このような経済状態にも関わらず、中国は、全人代で防衛費の6%超の増加を発表しました。
しかし、軍事力も結局は経済力が源泉です。
中国政府は、米国と本格的な経済戦争を遂行するだけの資金力について明確な戦略を持っているのでしょうか。
中国の外貨準備高3.3兆ドルは、日本(1.3兆ドル)の2.5倍にもなります。
しかし、日本とは違い、その中身を公表していないため、怪しい数字です。
対外純資産残高を見ると、3兆ドル規模の日本に対し、1.4兆ドルと半分以下なのですから、実質的な資金力は日本以下と考えるほうが妥当です。
どうやら、中国発表の数字は、一帯一路などで開発途上国に貸し付けた投資額も入れての外貨準備高だという疑いが濃厚です。
そうした政治的な投資は返済されない可能性が高いため、「動かすことができない」資金です。
日本の基準に準拠して考えると、実質的な外貨準備高は1.2兆ドル程度と考えられます。
しかも、そのうちの1.1兆ドルは米国債(この金額はFRBが把握していますから確実)です。
つまり、中国の純粋な資金の90%は米国債ということになります。
ということは、ここを米国に抑えられたら、その瞬間、中国の息の根が止まります。
そうなったら、中国の打つ手は、軍事的な先制攻撃しかなくなります。
まさに、石油の禁輸で追い込まれた真珠湾攻撃前夜の日本と同じ構図になりつつあるのです。
中国の金融危機について、次号でもう少し解説したいと思います。