日銀の方針と植田総裁(2)
2023.08.22
7月28日、日銀は金融政策決定会合の結果を発表しました。
事前の予想では「現状維持を続ける」との見方が大勢を占めていました。
具体的には、10年金利の変動幅±0.5%の維持及びYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の枠組みの維持です。
ところが、そうした予想は裏切られました。
まずは10年金利の変動幅です。
±0.5%は維持するが、超えた場合は1.0%以内に抑えるという内容でした。
記者会見に現れた植田和男総裁に対し、当然「1.0%までの上昇を許容するということか」という質問が浴びせられました。
それに対し、植田総裁は「あくまでも0.5%の維持だが、それを超える場合は1.0%以内に抑えるということです」と、歯切れの悪い答弁に終始しました。
しかし、市場は「日銀は1.0%までの金利上昇を許容した」と受け止め、日銀もそれを織り込み済みの発表だったと思われます。
一方、長期金利以上に注目されたのが、YCC運用の柔軟化です。
長期金利の維持よりYCCの運用枠組みの維持のほうが優先されるとの見方が強かったので、「意外」と受け止めた関係者が多かったようです。
YCC運用の軸は「国債の買い入れ」ですから、今後は買い入れ抑制に踏み切ると受け止められたようです。
また、学者時代の植田総裁は「YCCで金利政策を微調整することは難しいのではないか」と述べていましたから、その矛盾を突く質問も出ていました。
この会見をライブで聞きながら考えたことは次のニ点です。
まず一点目、「国債買い入れ」ですが、現状維持と解釈しました。
植田総裁は、買い入れの増加は「しない」と受け取られることを警戒して、マネタリーベースに不安が生ずれば買い入れを増やすと発言しました。
発言の言質を取られないようにという慎重な姿勢が印象的でした。
ニ点目は、YCCの柔軟化の意味です。
「YCCは効果と同時に副作用も大きい。ゆえに副作用が出る手前で間髪を入れずに調整の手を打つ」と、「柔軟化」の意味を説明しました。
植田総裁の持論との整合性をうまく取ったなという印象を受けました。
最後に、植田総裁は目下の経済情勢および今後の見通しについて、かなり丁寧な説明を加えました。
それによると「経済は、ゆるやかな回復を続けているが、経済・物価安定には至っていない」と述べ、続けて「賃金は4月の想定以上に上昇しているが、実質GDPの上昇は低いままである」。
さらに「23年度の物価上昇は予想値を超えたが、長期的に見ればまだ低い」として、物価2%上昇の目標は堅持するとしました。
記者から「マンション価格の高騰などで物価上昇の上ブレが起きるのではないか」という質問が出ましたが、それに対しては「都心のマンションなどの個別要因が大きいと見ていますが、その他へ波及するか否かは注視している」として、明確な判断は避けました。
為替市場の動きに対しては、「(日銀は)為替をターゲットとはしていないが、今後は考えに入れていく」と、一歩踏み出した回答をしました。
私が最も注目したのは「海外の不確定な実情は高い」と言及した部分です。
明らかに中国リスクの顕在化を念頭に置いた発言と受け止めました。
植田総裁は、中国バブルが弾けるのは確実で、それに対し、現在の中国政権には軟着陸させる戦略が決定的に欠如していると見ているようです。
しかし、問題は「それはいつ起きるか?」です。
それは数年後かもしれないし、30年後かもしれないという、地震予測のような見方しかできません。
このリスクに対する植田総裁の見解と防衛策については、今後、注意深く分析していこうと思います。
事前の予想では「現状維持を続ける」との見方が大勢を占めていました。
具体的には、10年金利の変動幅±0.5%の維持及びYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の枠組みの維持です。
ところが、そうした予想は裏切られました。
まずは10年金利の変動幅です。
±0.5%は維持するが、超えた場合は1.0%以内に抑えるという内容でした。
記者会見に現れた植田和男総裁に対し、当然「1.0%までの上昇を許容するということか」という質問が浴びせられました。
それに対し、植田総裁は「あくまでも0.5%の維持だが、それを超える場合は1.0%以内に抑えるということです」と、歯切れの悪い答弁に終始しました。
しかし、市場は「日銀は1.0%までの金利上昇を許容した」と受け止め、日銀もそれを織り込み済みの発表だったと思われます。
一方、長期金利以上に注目されたのが、YCC運用の柔軟化です。
長期金利の維持よりYCCの運用枠組みの維持のほうが優先されるとの見方が強かったので、「意外」と受け止めた関係者が多かったようです。
YCC運用の軸は「国債の買い入れ」ですから、今後は買い入れ抑制に踏み切ると受け止められたようです。
また、学者時代の植田総裁は「YCCで金利政策を微調整することは難しいのではないか」と述べていましたから、その矛盾を突く質問も出ていました。
この会見をライブで聞きながら考えたことは次のニ点です。
まず一点目、「国債買い入れ」ですが、現状維持と解釈しました。
植田総裁は、買い入れの増加は「しない」と受け取られることを警戒して、マネタリーベースに不安が生ずれば買い入れを増やすと発言しました。
発言の言質を取られないようにという慎重な姿勢が印象的でした。
ニ点目は、YCCの柔軟化の意味です。
「YCCは効果と同時に副作用も大きい。ゆえに副作用が出る手前で間髪を入れずに調整の手を打つ」と、「柔軟化」の意味を説明しました。
植田総裁の持論との整合性をうまく取ったなという印象を受けました。
最後に、植田総裁は目下の経済情勢および今後の見通しについて、かなり丁寧な説明を加えました。
それによると「経済は、ゆるやかな回復を続けているが、経済・物価安定には至っていない」と述べ、続けて「賃金は4月の想定以上に上昇しているが、実質GDPの上昇は低いままである」。
さらに「23年度の物価上昇は予想値を超えたが、長期的に見ればまだ低い」として、物価2%上昇の目標は堅持するとしました。
記者から「マンション価格の高騰などで物価上昇の上ブレが起きるのではないか」という質問が出ましたが、それに対しては「都心のマンションなどの個別要因が大きいと見ていますが、その他へ波及するか否かは注視している」として、明確な判断は避けました。
為替市場の動きに対しては、「(日銀は)為替をターゲットとはしていないが、今後は考えに入れていく」と、一歩踏み出した回答をしました。
私が最も注目したのは「海外の不確定な実情は高い」と言及した部分です。
明らかに中国リスクの顕在化を念頭に置いた発言と受け止めました。
植田総裁は、中国バブルが弾けるのは確実で、それに対し、現在の中国政権には軟着陸させる戦略が決定的に欠如していると見ているようです。
しかし、問題は「それはいつ起きるか?」です。
それは数年後かもしれないし、30年後かもしれないという、地震予測のような見方しかできません。
このリスクに対する植田総裁の見解と防衛策については、今後、注意深く分析していこうと思います。