企業における社長の力(2)

2018.09.18

本シリーズは、「社長の力」と力んでしまったので、いきなり大上段の話から入ります。
 
そもそも企業トップの一番大切な役割とはなんでしょうか。
と聞くと、「会社をつぶさないこと」という答えが返ってきそうなので、付け加えます。
「会社をつぶさないために、一番大切なことは何か」。
 
私なら「カネとヒトの確保」と答えます。
読者のみなさまも同様にお答えになるのではないでしょうか。
 
もっと具体的に言うと、「カネの調達」と「ヒトを育てる仕組み」となるでしょうか。
ただし、この両者は「戦術」であり「戦略」ではありません。
では、この2つの上にくる「戦略」とはなんでしょうか。
私は「自社が生き抜き、発展するための方向を見極めること」と考えています。
付け加えて言えば「自分がいなくなった後も・・」が枕詞に付きます。
 
これはかなり難しいことです。
死んだ後は、社内外に自分の考えを伝え、具体的な指示を出すことができなくなります。
となると、「戦略」の上に位置するものが必要になります。
戦略は、その時々において変化するものですが、その上に来るものは時代を超えて「不変」なものである必要があります。
これが「理念」というものなのでしょうか。
 
私は自社の理念をこう考えています。
「将来、創業者がだれかなんて、だれも分からなくなる企業になる」
だから、カリスマというものを嫌います。
 
かつて、知り合いの松下電器の役員から「社名から『松下』を消し、幸之助を忘れ去ることが必要だ」と聞かされたことがあります。
産業界が松下幸之助を「経営の神様」とあがめていた頃の話だったので、驚きました。
でも、彼の言葉通り、社名から「松下」は消えました。
さて、幸之助を忘れさる日は来るのでしょうか。
残念ながら私が生きているうちには来ないでしょうが、100年、200年先にはそうなっているのでしょうか。
 
明治維新から150年ですが、150年前に現代を予想できた人は皆無に近いでしょう。
でも、福沢諭吉のように、的確に国家の発達過程を説いた人はいます。
では、福沢諭吉がそのような考えを持つに至った最大の要素とはなんだったのでしょうか。
それは、咸臨丸で米国に渡ったことです。
あの時代のリーダーたちの多くは、海外に行った経験を持っていました。
唯一、経験がなかったのが西郷隆盛でした。
彼の非業の最後が、それに関係しているのは分かりませんが、リーダーに「外を見る目」を持つことが大事なのは確かです。
 
ということで、「世界を見つめて、自社の進むべき“新たな”方向を見極める」力こそが、社長が持つべき力の第一だと考えます。
 
次回は、「見極めた新たな方向に舵を切ることの難しさ」について論じてみたいと思います。