今後の建設需要(9)

2020.09.16


国交省が鳴り物入りで推進しているキャリアアップシステムですが、黄色信号が灯っているようです。
累積赤字が2020年度末には100億円を超える状況になり、しかも登録者が増えれば増えるほど赤字が拡大するというジレンマ状態です。
さらに、その解決策は登録料や利用料の値上げという安易さです。
 
その上、システムはまだ未完で、この先もかなりの開発費が必要というのですから、もう、前途は「どしゃぶり」状態です。
はっきり言って、事業モデルとしては破綻していると言わざるを得ません。
 
弊社は、建設業の基幹業務システムの開発、販売、サポートを30年続けていますが、弊社だったら、とっくに事業打ち切りのプロジェクトです。
国家というのはノンキなものだと言いたくなります。
 
50年近く前の話ですが、当時の通産省主導で「第5世代のコンピュータ開発」が国家プロジェクトとして華々しくスタートしました。
当時、私が在籍していたコンピュータ・メーカーも主力企業として参画していました。
私は、一時期ですが、東京の三鷹にあった電気通信研究所で、このプロジェクトのOS開発に携わっていました。
しかし、官僚主導の弊害ばかりが目立ち、プロジェクトは迷走し、ついに幻に終わってしまいました。
 
建設会社に転職した後、高速増殖炉「もんじゅ」の開発にも関わりましたが、これも頓挫しました。
今も経費を垂れ流す「もんじゅ」の無駄使いは3兆円を超えると言われています。
それらの失敗プロジェクトを考えれば、100億円程度の損失は研究のための初期投資だと腹をくくり、ここでいったん止まるべきではないでしょうか。
その上で、本システムの意義・目的を再考し、本当に技能者、建設会社双方にとって有意義なものなのかを検証すべきです。
 
はっきり言って、技能者も建設会社も、プロジェクトの意義は認めても、実質的な利を感じることができないのだと思います。
そこには、能力評価の難しさが横たわっています。
一口に「能力評価」と言っても、元請けの能力、専門工事会社の能力、技能者の能力は、各々が多様性に富み、かつ多くの要素が絡み合い、能力そのものの解析がまったく出来ていないのが現実です。
 
うんと単純化して考えて、実質的な運用までこぎ着けたとします。
しかし、そこで、目論んだ能力が額面どおりにいかなかった場合、金額保証をするのでしょうか。
また、その場合、どうやって補償額を算定するのでしょうか。
本システムが、どのように生産性向上に結びつくかがまったく見えない中で、「待遇改善につながる」と言われても、信じることができないはずです。
誰のためのシステムかが、技能者にも建設会社にも、もう見えないのではないでしょうか。
はっきり言って「失敗プロジェクト」となっています。